テラの暗殺者V(2)


1800年 1月27日 PM19:00


ここは外側の大陸――――
ジタンたちはフォッシル・ルーを抜けた後、ドナ大平野とプアレ大平野の間にある谷を進む途中、
崖の上に何か建物があるのを発見し、
クジャの手掛かりをつかむため、とりあえずそこを目指すことになった。
リンドブルム大公のシドから渡された地図によると崖を大きく迂回しなければならず、ダイシュノーズ海岸を横断し、
再びドナ大平野に入りようやく歩いて登れる場所の手前にまでたどり着いた。
しかし、そこで日が暮れてしまった。
本当なら、今日中に崖の上の建物へたどり着く予定だったのだが、
クイナが正午頃、遠くにク族の沼を見つけたとたん勝手に走って行ってしまい、寄り道をする羽目になってしまったのである。
そのため、近くにある森の中で野宿をすることになった。
「ごめんな、知らない大陸で野宿するのは嫌だろうけど我慢してくれよ?」
ジタンがテントを張りながら言った。
「ううん、もう野宿には慣れたから大丈夫だよ。」
ビビが薪に火を点けながらそう返事をした。
「わたしも平気よ。」
ガーネットも周りの薪を集めながらそう微笑んだ。
「それより腹減ったアルー。」
クイナが見当違いな返事をする。
「そうだな。じゃ、食事にするか。」
ジタンが苦笑しながら食事の準備をした。
ジタンが森の中から集めてきた果物や所持していた携帯食を食べた後、
クイナはさらに空腹を訴え森の中へ食べ物を捜しに行った。
ジタンが焚き火の前で見張りに立つことにして他の二人は眠りについた。
2時間ばかり過ぎてジタンはテントから誰か出てきた音に気付いた。
「ダガーか? どうした眠れないのか?」
ガーネットは後ろを振り返らずに言い当てたジタンに少々驚きながらもジタンの横に座った。
「ええ・・・、なんとなくだけれど・・・。」
「眠れないならオレが添い寝をして――――。」
「ジタン!!」
最近その意味がようやくわかったガーネットは顔を真っ赤にして怒り出す。
「ごめんごめん、冗談に決まってるだろ?」
「調子いいんだから、まったく・・・。」
ジタンは慌てて撤回するが、ガーネットは信用していないようだった。
しかし、ジタンはガーネットが以前よりも
どこにでもいる女の子らしくなっていくことを嬉しく思っていた。


しばらくの沈黙の後、ジタンはガーネットが憂鬱そうな顔をしていることに気付いた。
「今日のこと、まだ気にしているのか?」
ガーネットは答えなかったがそれは無言の肯定だった。


それはこの大陸について間もなくだった。
草原を歩いていると突然、ザグナル、グリフォン、ゴブリンメイジが襲いかかってきたのだ。
グリフォンがガーネットに襲いかかるが、突然の襲撃に彼女はとっさの反応ができなかった。
グリフォンの爪がガーネットを引き裂こうとする瞬間、
ジタンがガーネットの前に立ち塞がり、彼女を庇って傷を負った。
それでもジタンは怯まずにグリフォンの急所を攻撃し一撃で仕留めた。
それを見たゴブリンメイジは『バニシュ』を唱え自分の姿を隠したが、
ビビの『ファイラ』によって黒焦げになった。
クイナは残ったザグナルを一瞬のうちに食べてしまった。
それを見たガーネットは唖然としたが、ジタンとビビはそんなに驚いていないようだった。
戦闘が終わってから、ガーネットはジタンの治療をした。
ガーネットは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
何もできなかったばかりか、自分のせいでジタンに傷を負わせてしまったことに。
「ごめんなさいジタン、私のせいで・・・。」
「気にすんなよ、リンドブルムで守るって言ったろ?」
「でも・・・。」
「それよりクイナのあの食べっぷり驚いたろ? オレたちやフライヤも最初は驚いたけどな。」
ジタンはガーネットが自分を責めないよう、すぐに話題を変えた。
そしてすぐにクイナがク族の沼を見つけて走って行ってしまったために、
ガーネットはジタンに何も言えなくなってしまっていた。


「わたし・・・戦闘にも慣れたと思ってた。少なくとも足手まといにはならないと思ってたの。でも、戦うどころかサポートすらできなくて・・・」
「仕方ないさ。いきなりだったんだから。オレだっていつもなら気配に気付いてなきゃいけないのについ油断してしまっていたんだ。」
「でも・・・、あの時『ラムウ』を召喚することもできたのに途中で怖くなってしまったの。『ラムウ』にもう逃げないって誓ったはずなのに・・・。」
そう、ガーネットはそれからすぐ後にリンドブルムの破壊を目の当たりにしたためショックを受け、再び召喚魔法が怖くなってしまったのだった。


「わたしだって、ジタンやビビの役に立ちたいのにいったいどうしたら――――。」
ガーネットは泣きそうになった。
「やめろよ。ダガーはこの大陸に何のために来たんだ? モンスターと一人前に戦うために来たのか?」
「そうじゃない!! クジャを止めてお母様にこれ以上罪を犯させないために――――!!」
ガーネットは思わず大声で否定した。
「そうだろ? ダガーは自分がこの大陸に来た目的を果たすことを考えればいい。戦闘ですぐに役に立とうだなんてそんなことで悩む必要なんてないさ。ゆっくりでいいんだ。役に立ちたいって言ってたけど、ダガーだって充分オレたちの役に立っているんだぜ? ダガーの白魔法がなかったらオレたちはとてもここまで来れなかったよ、感謝してる。」


ガーネットは自分の心が軽くなるのを感じた。
いつの頃からか彼女はジタンに自分の悩みを自然と話すようになっていた。
そうすると、いつも彼女の悩みは嘘のように消え去るのだ。
「ありがとう・・・ジタン。」
ガーネットは素直に感謝した。
「どういたしまして、これからも困ったことがあったらオレに言えよ? いつでも相談に乗ってやるからな。」
「はい。」
ガーネットは微笑みながら返事をして立ちあがった。


「あ、言い忘れていたけど・・・。」
ジタンはテントに入ろうとしているガーネットを呼び止めた。
「なに?」
「その笑顔だけでオレはダガーのこと充分役に立っていると思うぜ。」
「えっ・・・? それって、どういう意味なの?」
「つまり・・・、ダガーのその笑顔を見ると何だか嬉しくて、今日もがんばろうって力が出てくるんだ・・・。」
珍しくジタンが顔を赤くして俯きながら答えた。
「ジタン・・・。」
ガーネットは少々意外に思った。
あのジタンが自分に対して恥ずかしそうな表情を見せるのは初めてだったからだ。
しかし、ジタンはすぐに先程の真面目な表情に戻して言った。
「さてと、明日も早いからもう寝たほうがいいぞ。午前中にはあの建物に着く予定だからな・・・? ダガー?」
「えっ? ええ、わかったわ。」
ガーネットはジタンのことを考えていたためとっさに返事ができなかった。
その時だった。
ジタンが恐ろしいほど強い殺気を感じたのは――――

inserted by FC2 system