テラの暗殺者V(1)


1800年 1月26日 PM12:30


ここはク族の沼にある霧の大陸と外側の大陸を繋いでいるフォッシル・ルーの入口――――
そこから大斧を担いだ女が出てきた。
「まったく、私としたことがあんな奴らに負けるだなんて!!」
女の名はラニ。
ブラネ女王に雇われ、ガーネットの持つ『宝珠』を奪うよう命じられた賞金稼ぎである。
彼女以外にもう一人、通称『焔色の髪の男』――――サラマンダーが雇われたのだが、
ラニは手柄と賞金を一人占めするために彼とは協力せず単独で行動していたのだった。
標的はただの小娘に背の低い黒魔道士兵、そして尻尾を持つ男の三人、
自分にはこの大斧以外にも魔法があり、
さらに、先回りして罠まで仕掛けていたのだ。
一人で充分だと思っていた。
だが彼女の予想に反して罠は思っていたよりも役に立たず、
彼女が自らガーネットに手を下そうと戦いを挑むと、
背の低い黒魔道士兵――――ビビの黒魔法と、
なぜか標的たちと行動を共にしていたク族――――クイナの青魔法と、
尻尾を持つ男――――ジタンの思いもよらぬ強さの前に敗れたのであった。
特にジタンは彼女がガーネットに襲いかかると必ず前に立ち塞がり、
大斧を左手に持つ短刀――――『ダガー』一本で受け止めてしまうのであった。
その上、敗れた後で気付いたのだが腰に下げていた『グラディウス』をジタンに盗まれていたことも彼女の怒りを増幅させていた。


「戦闘で敵わないなら、頭で勝負するしかないわね。」
ラニは独り言を言いながら作戦を練り直すためにク族の沼の入口まで戻った。
ふと振り返ると男がフォッシル・ルーに入っていくのが見えた。
今時こんな所に入るということは、ガーネットたちを追っているということだろうか?
「変ね。雇われたのは私と焔のダンナの二人だけのはずだけど?」
ラニはそう思ったがたいして気にもしなかった。
男の方もラニの存在には気付かなかったようだった。
彼女にとってはそれが幸運だったのだが。


ラニが見た男――――キリオはリンドブルム城内を通ることはせず、
リンドブルム高原から直接ここまで降りてきたのだった。
フォッシル・ルーの中に入りしばらく進むと一人の男がいた。
彼は盗掘屋で主にこの辺りの土を掘りお宝を発掘するのを生業としていた。
盗掘屋は発掘に夢中でキリオには気付かないようだった。
その時、盗掘屋は何かを掘り当てたようだった。
「何だ、こりゃあ!? 見たことねえ物が出てきたぞ?」
普通この辺りからは『原石』程度の物しか出てこず、
『ハイポーション』や『マダインの指輪』が発掘されるのはまれであった。
だが、今回発掘したのは筒に握りをつけただけのような黒い金属の塊だった。
「こんな鉄の塊じゃいくらにもなりゃしねえ。」
盗掘屋はそれを投げ捨てた。
そして、ようやくキリオの存在に気付いたようだった。
「何だ、今日はずいぶん客が多いじゃねえか。」
客とは先程ここへ来たジタンたちのことを指していた。
キリオはその言葉にはお構いなしに足元に落ちている鉄の塊を拾いじっと観察した。
「何だ兄ちゃん、それが欲しいのか? 別にくれてやってもいいぜ。」
キリオはその塊の握りの部分を持ち、筒の先を盗掘屋へと向けた。


そして次の瞬間、筒の先の穴から無数の光弾が発射され盗掘屋を撃ち抜いた。
盗掘屋は前のめりに倒れた。
彼は即死だった。
キリオは彼の死体には目もくれずジタンたちの追跡を再開した。
盗掘屋は知らなかったが、テラでさまざまな文献を読んだキリオにはこの鉄の塊がどういうものかすぐに理解できた。
これは古代の武器だったのだ。
この武器は自分の魔力に応じた光弾が発射され敵を撃ち抜くのである。
武器の名は『魔シンガン』といった――――

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