テラの暗殺者V(3)


1800年 1月27日 PM21:30


殺気に気付いたジタンはすぐに焚き火を踏み消した。
「どうしたのジタン?」
ジタンはガーネットの質問には答えずにテントの中にいるビビを小声で起こす。
「ビビ、起きろ。」
ビビも深い眠りではなかったらしく、すぐにテントから出てきた。
「いいか。二人ともそこの木の陰に隠れて静かにじっとしていろ。」
二人にはまだ何事か分からなかったが、ジタンの声色から只事ではないことは推察できた。
ジタンも木の陰に隠れて森の外に広がる草原を凝視した。
「あいつはあの時の――――」
ジタンは月明かりの中にリンドブルムで自分たちに襲いかかってきた少年――――キリオが立っているのを見た。
ガーネットもビビもキリオの姿を認めた。


ジタンとガーネットが会話を終える少し前――――
キリオも外側の大陸に到着しており、ジタンたちの後を追っていた。
そして今遠くの森の中に赤く燃える焚き火の炎を見つけたのだった。


ジタンは木の陰からキリオに呼び掛けた。
「何でお前がここに――――? そうか分かったぞ。お前もあのラニとかいう女と同じ、ブラネに雇われた刺客ってところだろ。悪いが『ペンダント』は渡さないぜ。」
キリオはそれには答えずいきなり右手に持つ武器――――『魔シンガン』を発射した。
無数の光弾がジタンたちに襲いかかる。
「危ない、伏せろ!!」
ジタンの言葉にガーネットもビビも地面に伏せた。
次の瞬間、光弾は三人が隠れている木を貫通し無数の穴を開けた。
「問答無用かよ。」
だがこのままでは三人ともあの光弾の餌食だ。
ジタンはすぐ近くに三人が身を隠すのには充分な岩があるのを見つけた。
「このままだとみんなやられるぞ。いいか二人とも、オレがあいつを引き付けているその隙にあの岩の後ろに隠れるんだ!!」
「でもジタンはどうするのよ?」
ガーネットが尋ねる。
「オレのことは心配するな。お前たちが隠れ終えたらオレもすぐに合流する。そしたら、そこからビビの黒魔法で反撃だ。いいなビビ?」
「う、うん分かった。」
ビビが緊張しながらも返事をした。


「じゃあ・・・行くぜ!!」
ジタンは立ちあがると岩とは反対の方向へ走り始めた。
キリオも光弾を乱射しながらその後を追いかける。
(いいぞ、そのままオレを追って来い。ダガーやビビが隠れ終えるまでな。)
ある程度ジタンがキリオを引き付けてここから離れるのを見てガーネットはビビに合図をした。
「今よビビ!!」
「うん!」
二人は岩の方へと走りその身を隠す。
ビビはキリオを一発で倒せるよう魔力を『ためる』。
そして魔法をいつでも放てるよう準備をした。
ジタンはその間も光弾をかわしながらキリオを引き付けていた。
そして二人が岩へ姿を隠したのを確認し岩の方へと走り始める。
もう少し、後10メートルでたどり着ける――――はずだった。
ついに光弾の一発がジタンの左太腿を貫通した。
「ぐっ!!!」
鋭い痛みが走りジタンは地面に倒れこんだ。
「ジタン!!」
ガーネットが叫んだ。
「ど・・・どうしよう。」
ビビは困惑した。
ビビはジタンが岩に隠れるのと同時に『ファイラ』をキリオに放つつもりだった。
だがこの位置ではジタンをも巻き添えにしてしまう。
限界までためた魔力のため、そうなったらジタンもただでは済まない。
その間にもキリオはジタンにとどめを刺そうと近づいてきた。
(ビビ・・・。ここはわたしが何とかしないと・・・)
ガーネットは『ラムウ』を召喚しようと詠唱を始めた。
回復魔法を唱えても次の瞬間にジタンはやられてしまう。
補助魔法でも同じことだった。
残るは召喚魔法しかないのだが、成功すればジタンは傷つかずに敵のみを倒すことができる。
しかし、失敗すればジタンは確実に死ぬ。
今の自分に使いこなせるのかと不安になる。
だが迷っている暇はない。
「お願いだから、力を貸して・・・。出でよ、『ラムウ』!!」
突然夜空に雷雲が広がり一人の老人が姿を現し、地面に向かって杖を投げつける。
そしてその杖に『裁きの雷』が落ちる。
その刹那すごい衝撃が辺りに走り土埃が舞った。
「うわわわわ!!」
ビビが吹き飛ばされないよう必死に岩にしがみつく。
ガーネットも土埃から身を守る。


ようやく土埃が収まってきた。
誰かが立っているのが見えた。
立っていたのはジタンでこちらに背を向けていた。
「ジタン!!」
ジタンは左太腿以外の傷はなかった。
「よかった・・・。」
ガーネットは安堵の声を上げた。
自分の召喚は成功したのだ。
ジタンを傷つけずに敵だけを倒すことができた。
だがジタンはいつまでたってもこちらを振り返らなかった。
「ジタン、どうしたの?」
ガーネットがジタンに近づこうとする。
「来るなダガー!!」
ジタンがガーネットを静止した。
よく見るとジタンは右手に『グラディウス』、左手に愛用の『ダガー』を持っていた。
そして、ジタンの視線の先にはキリオが立っていた。
キリオはわずかの差で『裁きの雷』の直撃を免れていたのだった。
しかし、それでもダメージは免れず右手と右足に重傷を負っていた。
『魔シンガン』は地面に落ちていた。
もはや黒焦げになって使い物にならないようだった。
「形成逆転だな。その体でまだやるつもりか?」
ジタンはキリオに言った。
どう考えてもキリオに勝ち目がないのはガーネットやビビにも分かった。
しかし、それでもキリオは残った左腕で『カオスブレイド』を抜いた。
「おい、マジかよ。」
ジタンは意外に思った。
普通ならここは一度引き上げて次の機会を狙うものなのだが、
この少年はさらに戦う姿勢を見せたのだ。
こいつは一体何者なんだと思った。
だが次の瞬間、キリオの姿は光に包まれたかと思うと突然消え失せた。
最初からそこに誰もいなかったかのように何の痕跡も残っていなかった。
三人は呆然としていたが、しばらくしてガーネットがジタンに駆け寄る。
「ジタン、大丈夫?」
「あ・・・ああ、ダガーのおかげで助かったぜ。サンキュ―な。」
ようやく我に返ったジタンはガーネットに感謝した。
その言葉がガーネットにとって嬉しかった。
自分がジタンの役に立てたことが。
「でも、足の傷は?」
「えっ、あっ、イテテテテ・・・」
ジタンは目の前の事に呆然とし、今までそのことを忘れていたのだった。
「そこに座って、治療するから。」


ビビは治療を終えたジタンとガーネットに以前と同じ質問をした。
「あの人は一体誰なの?」
「さあな。ラニと同じ刺客だと思うんだが。」
ジタンはそう言うしかなかった。
しかし、ジタンは頭の片隅でこう思った。
(あの冷たい目、クジャにどこか似ていたような気がするな。)と。
その時ガーネットは何か思いついたようだった。
「そうだわ。あの人が落していった武器を調べれば――――」
「そうか! 何か分かるかも――――」
その時三人の後ろに何者かが現れた。
「!!」
三人はとっさに身構える。
しかし――――
「ミンナこんなところで何やっているアルか? さてはワタシに内緒でおいしいモノ食べてたアルな?」
現れたのはクイナだった。
「お・・・脅かすなよクイナ・・・。」
ジタンは苦笑した。
「フヌッ! その顔は図星アルね。どこアルか!!」
クイナは辺りを探し始めた。
「オホ! あれアルな。」
そして、地面に落ちていた黒焦げの『魔シンガン』を見つけた。
「おい!! クイナそれは・・・!!」
ジタンが止めるがすでに手遅れだった。
「頂きますアル。」
クイナは一口で食べてしまった。
「ああーっ!!!!!!」
三人は思わず叫んでしまっていた。
「あんまりおいしくないアルな・・・? どうしたアルかミンナ?」
「・・・いや、もういいよ・・・。」
ジタンたちは呆れかえりそれ以上文句も言えないようだった――――

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