テラの暗殺者X(3)


1800年 3月2日 AM 6:30


ここは着陸しているインビンシブルの船内――――
崩壊がすぐそこまで迫っていた。
しかし、インビンシブルは未だ飛び立てずにいた。
ジタンが行方不明のままだったのだ。
ガーネットは出入口でジタンを待っていた。
「ダガー!! ジタンの居場所がわかったわ。」
エーコがガーネットを呼んだ。
それを聞いたガーネットはブリッジへ向かった。
「ここが私たちの現在地、彼は今ここであの男と戦っているわ。」
ミコトはブリッジにあるモニターにテラの地図を映し出して説明した。
「あの男って誰の事よ!? もしかしてクジャ?」
エーコが尋ねる。
「いいえ、でもクジャによく似た眼をしているあの男よ。」
ガーネットはそれだけで誰のことかすぐにわかった。
彼女は出入口に向かって走り出した。
エーコはそれに気がつかずにまくし立てる。
「じれったいわねぇ、早く言いなさいよ!」
「キリオよ。」
ミコトは静かに答えた。
「ちょっと待ってよ、キリオって誰よ!」
「キリオは――――。」
エーコはもううんざりだった。
「もういい!! ダガー、とにかくそこに――――ってどこに行くのよ!!」
ガーネットは外へ出て行こうとしていた。
インビンシブルで飛んで行くよりは走った方が早かった。
「姫さま、どちらへ行かれるのです!? 外は危険です、もう飛び立ちますぞ!!」
ガーネットはスタイナーの静止を振りきり外へ飛び出した。
スタイナーも出ようとしたが、サラマンダーに止められた。
「バカが、死にたいのか?」
その瞬間足場がついに崩れ始めた。
「姫さまぁーーーーっ!!!!」
スタイナーの叫びも空しくインビンシブルは発進した。


ガーネットはいつ崩れるか分からない道を走っていた。
しかし、彼女はジタンを助ける事しか頭になかった。
あの男相手にジタンが無事に済むはずがないと思った。
もし勝ったとしても動けないほどのケガをしたらテラの崩壊に巻き込まれてしまうだろう。
自分が助けに行くしかないと思った。


その頃ジタンとキリオは激しい戦いを繰り広げていた。
しかし、少しずつジタンが押し始めていた。
さすがに今までの戦いからキリオの動きが読めてきたのだ。
もう一息だった。
「なかなかやるな、さすがは失敗作とはいえ死神となるはずだったジェノムといったところか。大人しくテラのために尽くせばよいものを。」
防戦一方のキリオが言った。
「黙れ!! オレは失敗作でも死神でもない!! オレはジタンだ!!!」
攻勢のジタンが返す。
「ふん、減らず口もそこまでだ。」
キリオはいったんジタンから距離を置き剣を垂直に構え、左手から魔力を放出し『カオスブレイド』へと集中させた。
剣が見たこともないような色に光り始める。
『魔法剣アルテマ』の構えだった。
ジタンはキリオが何をしようとしているのかすぐに理解できた。
この構えはスタイナーとビビの『魔法剣』にそっくりだった。
ジタンは横へ避けようとしたが、それより早くキリオは剣を振り下ろした。
その瞬間、ものすごい大爆発が起きた。
さすがにキリオもジタンの猛攻の前に充分な魔力を集中しきれなかった。
そのため、以前よりも威力は弱かった。
しかし、ジタンに深手を負わせるには充分過ぎるほどだった。


やがて、ジタンの姿が見えてきた。
ジタンは地面に横たわっていた。
「がはっ!!!」
口からは血を吐き体中の傷が痛々しかった。
「フフフ、形成逆転だな。お前はもう終わりだ。」
キリオは余裕の笑みを浮かべた。
「だが、一応最後に聞いておこう。テラのために働く気はないんだな?」
キリオの最後通告だった。
それに対しジタンは苦しそうに、しかししっかりとした声でニッと笑いながら言った。
「・・・いいかげんにしろよなコノヤロー・・・。」
「貴様!」
キリオはジタンの腹を思いっきり蹴り飛ばした。
「ぐっ・・・!!」
ジタンは呻き声一つ残して気を失ってしまった。
「ふん、愚かな奴だ。」
キリオはとどめを刺そうと再び『魔法剣アルテマ』の構えをとった。
『カオスブレイド』が光り始めた。
ガーネットがそこへたどり着いたのはちょうどその時だった。


「ジタン、危ない!!」
ガーネットはジタンの危機を見て召喚魔法を唱えた。
「お願い『イフリート』、力を貸して!!」
『イフリート』が召喚されキリオに襲いかかる。
「な、何だ!?」
『地獄の火炎』がキリオを呑み込んだ。
ガーネットはその隙にジタンに駆け寄る。
「ジタン!! ジタン、しっかりして!!」
ガーネットが呼びかけるがジタンは苦しそうな呼吸をするだけだった。
回復魔法を唱えようとした時、背後から声がした。
「小娘が・・・やってくれるじゃないか。」
振り向くとキリオが無傷で立っていた。
「・・・どうして平気なの? 確かに命中したはずなのに・・・。」
ガーネットは驚きを隠せなかった。
キリオは笑って答えた。
「フフフ。生憎だが、この服は今までのとは違い、全ての属性を無効化してくれるんだよ。」
しかし次の瞬間には怒気を含んだ顔になった。
「だがおかげで『カオスブレイド』が破壊され使い物にならなくなった! この罪はお前たちの命で償ってもらおう!!」
キリオはもう一本の剣を抜いた。
ガーネットも『ミスリルラケット』を構えながら言った。
「やってみなさいよ。でも、ジタンには指一本たりとも触れさせやしないわ!」


正直ガーネットは怖かった。
ジタンを倒したこの男に自分が勝てる可能性は限りなく低かった。
しかし・・・
ガーネットは地面に横たわるジタンを見て思った。
(ジタンはいつでもわたしを必死になって助けてくれた。だから今度はわたしがジタンを助ける番。もし助けることさえできないなら、わたしの命に代えてもジタンを守ってみせるわ。)
彼女は勇気を奮い起こして召喚魔法を唱え始めた。
「また召喚魔法か? 俺にはどんな召喚獣も無意味だということを今教えてやる!」
キリオはガーネットに剣を構え突進した。
キリオの動きはとても速く、このままでは召喚する前に確実にやられてしまうだろう。
しかし、ガーネットはここで意外な行動に出た。
召喚魔法を唱えながらキリオに向かって『ミスリルラケット』から光の弾を打ち出して攻撃したのだ。
「何っ!?」
光の弾が命中しキリオの動きが僅かに鈍った。
その隙にガーネットは召喚魔法を唱え終える。
「出でよ、暗黒の戦鬼『オーディン』!!」
『オーディン』が『斬鉄剣』を構えて愛馬スレイプニルを走らせた。
キリオには属性を持つ召喚獣は効かない
残っているのは『アトモス』、『オーディン』、『バハムート』であるが、キリオを確実に倒すことのできる召喚獣は一撃必殺の『オーディン』だけであった。
ガーネットの『ミスリルラケット』を使った時間稼ぎの作戦はうまくいった。
『オーディン』の『斬鉄剣』がキリオを切り裂く――――はずだった。
しかし、衝撃と共に切り裂かれたのはなんと『オーディン』の方だった。
『オーディン』はそのまま消滅した。
「きゃあっ!!」
ガーネットも衝撃の余波を受けて吹き飛んだ。
「フフフ、残念だったな。この剣は『ハイぺリオン』といって大昔『オーディン』を切り裂いたという伝説の武器だ。俺には召喚獣など効かないと言ったろう?」
キリオは説明した。
「嘘でしょう・・・? そんな剣が実在するなんて・・・。」
ガーネットはよろめきながらも立ちあがった。
しかし、ガーネットに打つ手はもう一つもなかった。
「だが、作戦は見事だった。その返礼としてお前たちは地獄の苦しみを味わいながら死んでいくがいい! 古代魔法『グランドクロス』!!」
キリオが唱えると同時にテラ全体が大きく揺れた。
そして、強力な負のエネルギーがガーネットと気を失っているジタンに襲いかかった。
それを見たガーネットは即、行動に移った。
(ジタンを・・・、ジタンを守らないと・・・。)
ガーネットはジタンを守ろうと駆け寄る。
『グランドクロス』が直撃するのと、ガーネットがジタンに覆い被さるのは同時だった―――
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