テラの暗殺者X(4)


1800年 3月2日 AM 6:50


ジタンは出血多量のためにはっきりとしない意識の中思った。
(オレはこのまま死んじまうのか? ちくしょう、体が動かねえ。
早く脱出してクジャを止めなきゃいけないってのに・・・。みんなもうとっくに脱出しただろうな。
みんながオレを助けに来てくれた時は嬉しかったよなあ。
ビビ、スタイナー、フライヤ、クイナ、エーコ、サラマンダー、
それにダガー・・・。
みんなこの旅で変わったよな。それなのにオレは今まで全く変わってなかったんだ。
オレは今まで仲間のことを信頼しきれてなかった。
みんなを信じていたけど、頼ることはあまりしなかった。
オレなんかのために誰かが傷つくのがとても辛くて嫌だったんだ。
それくらいならオレが他人のために傷ついた方が楽で・・・。
へ・・・これじゃダガーと全く変わらないかな。
ダガー・・・、最初はいつもの軽い気持ちの好きだったけど、いつの間にか心の底からダガーの全てが好きになっちまってた。
ボスが昔一度だけ言ってたよな。
『ナンパばかりしているお前も、いつかは心底好きになる女に会える日が来るだろうよ。』
ついてねえよな、ダガーを心底好きになったと自覚した途端に死ぬだなんて。
ちゃんとした告白しときゃよかった。まだ『ありがとう』しか言えてねえのに・・・。
オレの本当の気持ちを伝えたかったな。
オレが守ってきたようにオレのこと守りたいって言ってくれたけど守ることも守られることももう――――)


その時、聞き慣れた足音が聞こえ、ジタンの意識が不意に戻り目の前にガーネットが自分を庇おうとする光景が映った。
(ダガー、オレを守りに来てくれたのか!? そうだ、オレもダガーのこと守りきるまで死ぬわけには・・・!!!)
ジタンは両腕を伸ばしてガーネットを抱きしめた。
すると不思議な光が二人を包んだ。


『グランドクロス』によってこの世とは思えないほどの衝撃と爆発が起きた。
キリオは自分の勝利に酔いしれていた。
「フフフ、これで残る召喚士は一人だけ。そいつさえ始末すればテラに対する脅威は何もない――――? な・・・何だあの光は!?」
爆発の中心に光があった。
その光の中にジタンとガーネットが立っていた。
キリオは二人の中に異常なほどの力を感じた。
「残念だったなキリオ。だけどオレたちはまだ死ぬわけにはいかないんだ!!」
ジタンはニッと笑った。
「バカな!! なぜお前たちは生きていられる!? それに何だその力は!?」」
キリオは見たことのないその光景に驚愕していた。
ジタンたちは『トランス』していたのだ。
お互いを守りたいとする欲求が二人をそうさせたのだった。
キリオが知らないのも無理はない。
テラのどの文献にも載っておらず、ガーランドからも教わらなかったからだ。
実はクジャの『トランス』も見てはいないのだ。


「どこまでもしぶとい奴らめ!! だがこれで終わりにしてやる!!!」
キリオは剣を垂直に構え、左手から魔力を放出し『ハイペリオン』へと集中させた。
剣がまたしても光り始めた。
「それはこちらの言う台詞だぜ!!」
ジタンも『オリハルコン』を構えた。
どちらもこの一撃に勝負を賭けた。
「くたばるがいい!! 『魔法剣アルテマ』!!!」
「いくぜ!! 『グランドリーサル』!!」
両者の攻撃が衝突し、大気が震えた。
しかし、次の瞬間、キリオの『ハイペリオン』にヒビが走った。
「なっ!! そ・・・そんなバカな――――」
『ハイペリオン』が砕けキリオは『グランドリーサル』を近距離でまともにくらった。
「ぐわあああああああ!!!!!!!!!!!!」
キリオは遥か上空まで吹き飛ばされ、すごい衝撃と共に地面に落下した。


「ごふっ!!」
キリオは仰向けになっていた。
口から大量の血を吐いた。
彼はジタン以上の大ケガを負ったがまだ生きていた。
しかし、もう虫の息だった。
間もなく彼の命は尽きるであろう。
ジタンとガーネットはキリオの傍に立っていた。
ジタンの傷はガーネットが治療した。
二人ともすでにトランスは解けていた。
「な・・・なぜだ? なぜそれだけの力をガーランド様から与えられながらテラのために使おうとしないのだ・・・?」
キリオはジタンに問い掛けた。
「オレはこの力を『何か』のために使うことは絶対にしない。」
「何だと、では何のためにその力を使う?」
するとジタンはこう答えた。
「『誰か』のためさ。」
「バカな、他人のためだと・・・」
「お前には理解できないだろうな。生きようとする欲望も、大事な人を守ろうとする欲求もないお前にはな。」
キリオには信じられなかった。
そのために自分が負けたとは。
「愚かな・・・。他人のために行動することがいつかお前たちにとっての災いになるぞ・・・。」
それがキリオの最後の言葉だった。
「キリオ?」
ジタンが呼びかけた。
しかし返事はなかった。
キリオはすでに息絶えていた。
しかし、自分たちを何度も殺そうとした男のはずなのに、なぜかジタンもガーネットも素直に喜べなかった。
どんなに憎い奴でも、死んでしまうということはやはり物悲しかった。


だが、二人には感傷に浸っている時間はなかった。
ついに、この辺りも崩壊を始めたからだった。
地割れが走りキリオの亡骸が呑み込まれていった。
ジタンは焦った。
周りはすでに崩れ落ちており、逃げられる場所はなかった。
上空にはインビンシブルが到着していたが着陸は不可能だった。
運動神経の優れているジタンでもあそこまでは移動できない。
ましてや、ガーネットも一緒では尚更だった。
ガーネットの『レビテト』でもあそこまでには届きそうにない。
ジタンはガーネットに自分たちが絶望的な状況にあることを伝えた。
「すまない、ダガー・・・。オレたちここから逃げることはできないみたいだ。」
するとガーネットは微笑んで言った。
「ジタン、心配しないで。わたしがあなたを守るから。」
「えっ?」
ガーネットはジタンから尋ねられる前に召喚魔法を唱えた。
唱え終わると同時に足元が崩れた。
しかし、二人は地割れの中に落下することはなかった。
二人は飛空艇のブリッジの上にいた。
ただ、その飛空艇はインビンシブルではなかった。
しかし、ジタンには見覚えがあった。
「ダガー、これは確かウイユヴェールでオレたちが戦った・・・。」
「ええ、『アーク』よ。」
「どうしてこいつが――――?」
「この石のおかげなの。」
それは『アーク』を倒した時に手に入れた『ふゆう石のかけら』だった。
実は『アーク』も『バハムート』や『ラムウ』などと同じく召喚獣であり、『ふゆう石』に『ガーネット』や『ペリドット』などと同様に石に封じ込められていた。
ただ、『かけら』のため不完全な召喚だが二人を乗せて移動するには充分だった。
間もなく『アーク』はインビンシブルの入口にたどり着いた――――
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