テラの暗殺者X(2)


1800年 3月2日 AM 6:15


「こ・・・ここはどこなんだ?」
ジタンはいきなり自分が暗い部屋の中に立っていることに驚いていた。
「確か飛空艇に乗りこもうとしたら、黒い光に包まれて・・・。」
自分の身に何が起きたのか頭の中で整理しようとした。
しかし、その思考は途中で中断することになった。
ジタンの背後で声がしたからだ。
「古代魔法『デジョン』で来てもらった。」
「誰だ!?」
ジタンは振り向いた。
そこにはあの後ろ髪を長く伸ばしたオールバックの黒髪にガーランドと同じ黒ずくめの服と黒マントを着用し、ぞっとするほど冷たい目をしており、
自分たちを何度も殺そうとした少年――――キリオが立っていた。
しかし、今日は腰に二本の剣を下げていた。
「ようこそ、そして久しぶりだなジタン。」
「な・・・何でてめえがここに・・・? そうか、お前もジェノム・・・いや、それより何でいきなりしゃべってんだ? オレは何でここに――――?」
ジタンはキリオに次々と質問を投げかけた。
「慌てるな、順序良く説明してやる。」
キリオはジタンを落ち着かせると説明を始めた。
「俺の名はキリオ。お前が言う通りガーランド様によって創られたジェノムだ。だが、ただのジェノムではない。クジャと同じ偶然が重なって創られた。俺の役目はテラの脅威になりかねない者たちの暗殺だった。今日まで感情や意思を持たなかった俺には打ってつけの任務だったのだろうな。」
「そうか、それであんなに無口で無表情だったって訳か。」
ジタンの長かった疑問がようやく解けた。
「フフ、そういうことになるがそれも今日で終わりだ。」
「何だと?」
「俺がこうして話しているということは、先程ガーランド様がお亡くなりになられたということだ。ガーランド様が死ぬと同時に、俺の頭の中にあるリミッターが解除され、俺は意思と感情を与えられてガーランド様の後を継ぎテラの管理者となった。しかし、こんなに早くガーランド様が死なれるとは思わなかったがな。」
キリオは腕を組みながらそう言った。
「てめえがそうなった訳はわかったが、なぜオレをここに呼んだ? 任務に従ってオレを殺すためか?」
「いや、お前は俺の部下としてガイアに戦乱をもたらす死神となってほしい。ガーランド様とクジャとの主従関係と同じように。」
「ちょっと待て!! オレがクジャみたいになるとでも思ってんのか!?」
「お前は選ばれたジェノムなんだよ。見るがいい。」


キリオは部屋の明かりをつけた。
そこには信じられない光景があった。
たくさんのジェノムがホルマリン漬けになっていたのである。
ジタンは吐き気を覚えた。
そのジェノムたちは言葉では言い表せないほど奇怪な姿をし、苦しそうな表情を浮かべていたからである。
「な・・・何なんだこいつらは!?」
「クジャに代わってガイアに戦乱をもたらすためにガーランド様が創られたジェノムの失敗作だ。そして試行錯誤の末やっと完成したのがお前だよ。」
「そんな・・・ここは一体どういう所なんだ!?」
「ここは、パンデモニウムの地下深くにある研究室だ。ブラン・バルにある施設は一般的なジェノムのための物だ。お前やミコトのような特殊なジェノムはここで造られた。」
「こいつらがみんなオレやクジャの兄弟だってのか?」
ジタンはジェノムたちを指差しながら言った。
「兄弟? おもしろい表現だな。こいつらは選ばれなかった失敗作なんだよ。だが、お前は選ばれたんだ。選ばれた報いとしてテラのために尽くすのが当然じゃないか。」
「ふざけるな!! だいたいテラはもう崩壊するんだ、ジェノムだってもう創ることはできないんだぞ!!」
「ここはテラの地上から遥か地下にある。地上がどんなになろうとここが破壊されることなどない。」
「だったらオレが破壊してやる!! こいつらみたいな悲しい存在はもう創らせないぜ!!」
キリオは嘆息した。
「やはり拒否するのか。お前も所詮失敗作だということか・・・」
「うるせえ! 失敗も成功も関係ねえ!! 覚悟しやがれ、ふざけた実験も研究も終わりにしてやる!!」
ジタンは右手に『オリハルコン』、左手に愛用の『ダガー』を構えた。
「フフ、こんな狭い場所よりもっとふさわしい場所へ今から連れていってやろう。」
キリオが指を鳴らすと周りの景色が一変した。


「ここは・・・?」
「ここはガーランド様がさっきの研究所で造られたジェノム同士、もしくはジェノムとモンスターを戦わせデータを分析するための格闘場だ。クジャも俺もミコトもここで訓練された。失敗作には当然の死が待っている。お前にふさわしい墓場じゃないか。」
「ここがオレの墓場じゃなくお前の墓場になることを今から教えてやるぜ!!」
「フフフ、いい度胸だ。言っておくがここは強力な魔力のシールドで覆ってある。入るのは簡単だが出るには俺を殺さなければならないぞ。」
「ごたくは聞き飽きた!! いくぜ!!」
ジタンがキリオに立ち向かっていった。
「失敗作がほざくな。」
キリオも腰から『カオスブレイド』を抜いて構える。
両者の最後の戦いが今始まった――――


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