テラの暗殺者W(4)


1800年 2月7日 AM 1:00


ここはアレクサンドリア近くを流れる大河――――
その水上を一隻の脱出艇が航行していた。
ほとんどの市民が別の脱出艇でリンドブルムへと向かっていたが、この船は未だにアレクサンドリアに残っていた。
船に乗っているのはタンタラス団の面々だった。
彼らは逃げ遅れている人々がいないかどうか捜索していたのである。
その結果、十人程発見し船に乗せることができた。
その中にはスタイナーもいた。
彼は『魔法剣アルテマ』によって川岸まで吹き飛ばされていたのである。
しかし、それにも関わらず軽傷ですんだのは奇跡的であった。
彼は船に乗ってすぐにベアトリクスが近くにいるはずだと言った。
しかし、彼女の姿を発見できないまま先程の大爆発が起き、やむを得ずに船を岸から離すほかなかった。
爆発が収まりアレクサンドリアが完膚なきまでに破壊されたのを見て、逃げ遅れた人々の生存は絶望的に思えた。
それ以来スタイナーは静かになっていた。


「ヘブション!! どうだブランク、誰か発見できたか?」
バクーが船を操縦しているブランクに訊いた。
「だめだボス。誰もいないようだぜ。」
ブランクが答える。
あれからも一応調べては見たがもう無駄なようだった。
「そうか・・・じゃあリンドブルムへ出発するか。」
そしてスタイナーに向かって言った。
「わりいが、これ以上の捜索は打ち切らせてもらうぜ・・・。」
「・・・わかったのである。」
スタイナーは俯いたまま返事をした。
その時である。
「待つっス!! ボス、向こうの岸に明かりが見えるっス。」
見張りをしていたマーカスが叫んだ。
「本当か!? ブランク、すぐに寄せろ!!」
バクーがそちらの方に走る。
スタイナーも後から続いた。
確かに明かりがゆらゆらと揺れていた。
船が岸へ近づくにつれ、明かりの正体がわかった。
小さなモーグリ――――モグが頭のポンポンを光らせて左右に振っていたのだ。
そして、その傍には三人の人物が確認できた。
バクーとスタイナーには三人が誰かすぐに分かった。
一人目はエーコでこちらに向かって大声を出しながら必死に手を振っていた。
二人目はジタンで仰向けに横たわったまま動いていなかった。
三人目はガーネットでジタンの手を握り締め、彼の名を呼び続けながら泣いていた。


それから数時間後、リンドブルム城内――――
「ジタンの様子はどうブリ?」
妻のヒルダによってブリ虫にされてしまっているリンドブルム大公シドが、
ジタンを治療している医師に訊ねた。
明け方頃、バクーたちはリンドブルムに到着しジタンは傷の治療を受けていた。
つい先程までガーネットもジタンの傍にいたのだが、
ガーネットも明らかに疲労の色が濃く、別室で休むよう何とか言い聞かせた。
「応急手当が迅速だったため、命に別状はありません。しかしながら、出血多量で3日間は絶対安静です。」
医師はそう診断した。
「わかったブリ、引き続きよろしく頼むブリ。」
「かしこまりました。」
シドは病室から出ていった。
「しかし、あれはどういうことブリ?」
シドは脱出艇に乗った時のことを思い出していた。
アレクサンドリアが最後の爆発を起こす直前、シドはクジャがヒルダガルデ1号に乗って脱出する姿を見たのだった。
黒魔道士兵も何人か乗っていた。
しかも、その黒魔道士兵たちは言葉を話していたのだった。
残念ながら、一緒に脱出したビビ、フライヤ、サラマンダーは船内にいたため見ることができなかったが。


その頃、ヒルダガルデ1号船内――――
クジャに騙され黒魔道士の村から連れてこられた黒魔道士たちが、ヒルダガルデ1号を操縦し黒魔道士の村を目指していた。
別にクジャにそこへ行けと命じられたわけではない。
しかし昨夜、森の中に着陸させてあるヒルダガルデ1号に彼らが待機していると、クジャが傷だらけで戻ってきた。
「ぼ・・・僕がこんな屈辱を味わうとは・・・。許さんぞガーランド・・・。」
そう言った後、気を失ってしまったのだった。
そのため黒魔道士の村に戻ってクジャを治療するしかなかった。
クジャが黒魔道士の村で目覚めるのは翌日のこと、
さらに隠れ家のデザートエンプレスに戻るのはジタンが目覚めるのと同じ、2月10日のことになる――――


再びリンドブルム城内――――
ガーネットは客室のベッドで横になっていた。
この上なく疲れていたが眠ることができなかった。
眠ろうと目を瞑ると悪夢を見てしまうような気がした。
育ての母の死、自分を助けに来てくれたジタンの負傷、
そして、アレクサンドリアの壊滅とガーネットにとってあまりにも辛い出来事が立て続けに起きたため、彼女の心は癒しがたいほどの深い傷を負ってしまったのだった。
ジタンが起きていてガーネットに慰めの言葉をかけてさえいたら、ここまでにはならなかったであろう。
その傷はジタンが目覚めるまでの3日間に少しずつ深くなり、ついには声を失ってしまうのだが、
そのことは、ガーネット自身を含めて今は誰も知らない。


同じ頃テラでは――――
「ジタンがキリオを負かすほどの戦闘力を持っていたとはな。」
ガーランドはキリオを治療し終え冷凍ポッドに入れた後、ジタンの戦闘データを詳しく調べた。
「これならば、クジャに代わりガイアに戦乱をもたらす死神にふさわしい。」
クジャの抹殺には失敗したが、そのことにガーランドは満足していた。
「クジャはもうしばらく生かしておいた方がよさそうだ。」
クジャとジタンが争う限りいつかはここへとたどり着くであろう。
その時にクジャを始末し、ジタンをこちら側へ引き込めばよいのだ。
そしてキリオにはいずれ――――


ガーランドは自分の計画の成功を確信した――――


inserted by FC2 system