テラの暗殺者W(3)


1800年 2月7日 AM 0:10


ここはアレクサンドリア城下町の広場――――
ジタンは命からがらガーネット、エーコの二人の救出に成功し、アレクサンドリアから脱出しようとして、ようやくここまでたどり着いた。
ここまで来たら後は大通りを抜けるだけだった。
しかし、ジタンはともかくガーネットやエーコはかなり疲労していた。
『アレクサンダー』を召喚した上に祭壇からここまで一気に駆け降りてきたからである。
二人は苦しそうに息をしていた。
「疲れたかもしれないけど、もうちょっとだからがんばれよ?」
ジタンは二人を励ます。
「エーコは平気。まだ走れるんだから!」
「わたしもこのくらい大丈夫よ。」
二人はジタンに心配をかけまいとしてそう答えた。
「よし、じゃあ行こうぜ・・・って、嘘だろ?」
ジタンは大通りから歩いてきた人物を見て目を疑いたくなった。
それは二度にわたって自分たちに襲いかかってきた人物――――キリオだったからだ。
ガーネットも顔を青くした。
「ジタン、誰あの人?」
初対面のエーコはジタンに尋ねた。
ジタンはそれには答えずにトレノで合成してもらった盗賊刀『エンジェルブレス』を構えた。
「こんな時に・・・。ダガー、エーコと少し下がってろ。」
「でも、ジタン一人では・・・。」
「心配すんな。すぐに終わらせるから。」
ジタンはそう言ってニッと笑いキリオに向かって歩き出す。
ガーネットはジタンの役に立てない自分がもどかしかった。
ガーネットとエーコは『アレクサンダー』召喚で魔力を使い果たしていたのだった。
(お願い、どうか無事で・・・。)
ガーネットはジタンの背中を見送ることしかできなかった。


ジタンはキリオに近づいていきながら話し掛けた。
「おい、まだオレたちを狙おうってのか? いいかげんお前が何者か教えてくれよ。」
ジタンはこの男がブラネの刺客ではないことはアレクサンドリアに戻った時に聞いた。
「クジャに関係があるのか? それともただの一匹狼か?」
キリオは何も答えなかった。
ジタンとキリオの距離が残り数メートルになった時、キリオは『カオスブレイド』を抜いてジタンに斬りかかった。
「やっぱり、聞く耳持たずかよ!!」
ジタンも『エンジェルブレス』で応戦する。


勝負はしばらく全くの互角だった。
しかし、やはりキリオの方が優勢になった。
キリオはジタンの『エンジェルブレス』を弾き飛ばした。
そして無防備のジタンに対してキリオの剣が彼の脇腹を捕らえ切り裂いた。
「ぐっ!!!」
傷口から鮮血が流れ出す。
ジタンは傷を押さえながら跪いた。
「ジタン!!」
エーコは叫んだ。
ガーネットは恐怖のあまり声も出なかった。
キリオはジタンの首を切り落とそうと剣を大上段に振りかざした。
だが次の瞬間、感情のないキリオの顔が初めて苦痛に歪んだ。
キリオの腹に深々と『ダガー』が突き刺さっていたのだ。
ジタンは自分が無防備になることにより、キリオが僅かに油断するこの瞬間を狙っていたのだ。
それは失敗すれば確実な死が伴う危険な賭けであった。
キリオは『ダガー』を無理に引き抜いた。
そのため、勢いよく鮮血が吹き出す。
さすがのキリオも痛みに耐えかねた。
「どうだ、オレの勝ちだ。もう降参したらどうだ?」
ジタンはキリオに降参を勧めた。
だが、なおもキリオは『カオスブレイド』を構えた。
「おいおい、無理すんなよ。死んじまうぞ。」
ジタンはキリオの行動が全く理解できなかった。
何度も何度も自分たちに襲いかかり、重傷を負ってもなお戦おうとしている。
何が彼をここまでさせているのだろうか。
その時キリオの耳に声が届いた。
「キリオ、もうよい、引き上げるのだ。」
それを聞いたキリオは『カオスブレイド』を収めた。
そして、またしてもキリオの姿は光に包まれたかと思うと突然消え失せた。


「また逃げられたみたいだな。」
ジタンはガーネットとエーコの所へ戻ってそう言った。
「それよりジタン、ケガは!?」
ガーネットが心配そうな顔を浮かべた。
「ああ、たいした傷じゃねえよ。」
ジタンはいつもの笑顔で返す。
「ホントに?」
今度はエーコが尋ねる。
「ホントさ。それよりも早くここから・・・。」
その時、ジタンは城の上空の目からまばゆい白色のビームが発射されたのを見た。
「まずい!! 二人ともしばらく我慢してろ!!」
「えっ!? な、何するのジタン!?」
「キャッ!」
ジタンはいきなり二人を抱えて走り出した。
次の瞬間、アレクサンドリア城と『アレクサンダー』が大爆発を起こした。
そして、その爆発のエネルギーが家々を薙ぎ倒しながらジタンたちへと迫って来た。
もはや、大通りからの脱出では間に合わない。
ジタンは裏通りへと走っていった。
傷口から血が次々と流れ出るが気にしている暇はない。
実は、傷が思っていたよりも深かったのだ。
「しっかり掴まってろ!!」
そして、尖塔の前に広がる大河へと飛び込んだ。
その直後、頭上を爆風が通り過ぎていった――――



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