テラの暗殺者W(2)


1800年 2月6日 PM23:50


ここはアレクサンドリア大通り――――
クジャとキリオが戦った場所からは100メートルばかり城に近づいている。
その道をキリオは城へと歩いていた。
城にいると思われるガーネットを抹殺するために。
その時、城の方から逃げ遅れた少年がキリオの方へと走ってきた。
それがキリオには自分の前に立ち塞がる邪魔者に見えた。


少年は剣を持ってこちらを見ているキリオを見て自分を助けに来てくれたんだと思った。
だが、少年はキリオの目を見て恐怖に駆られた。
その目が殺気に満ちていたからだ。
少年はその場から動けなくなった。
キリオは少年に近づくと剣を垂直に振り下ろした。
少年は思わず目を瞑った。
自分は死ぬんだと思った。
しかし、いつまでたっても痛みは来なかった。
恐る恐る少年は目を開けた。
見るとキリオの剣を、重そうな鎧を着た男が氷のような剣―――『アイスブランド』で受け止めていた。
そのままの姿勢で男――――スタイナーは少年に言った。
「無事であるか? 早くこの場から離れるのだ!!」
少年はその言葉に我に返る。
「何をしているのです? 早くこちらから逃げなさい!」
少年は自分の背後にいる栗色の髪の右目に眼帯をした美しい女性――――ベアトリクスに言われるがまま逃げ出した。
そのため、少年は町から脱出することに成功した。
後年、この少年――――ライアンはこれが原因で『プルート隊』に志願することになるのだが、それは別の話。


ライアンが逃げ出したのを確認した後、
ベアトリクスも愛用の剣――――『セイブザクイーン』を持ちスタイナーの加勢に回った。
二人はキリオを一目見て剣の達人であることを悟った。
霧の魔獣はほとんど倒したものの全身に傷を負ったため、一人ではまず勝ち目がないことも。
「おぬし、クジャの手下と見た。このスタイナーとベアトリクスが成敗してくれる!!」
アレクサンドリア最強の騎士二人が剣を構える。
それを見たキリオは二人を自分の敵と認識した。
キリオが二人に挑みかかる――――


10分ばかり二人はキリオと剣を交えていたが2対1にも関わらず二人は押され気味となっていた。
これまでの戦闘で傷を負い、体力も限界に近づいていたことが大きな要因だった。
「このままではキリがありません。一気に勝負をつけましょう!!」
「わかったのである!!」
スタイナーは『アーマーブレイク』を、
ベアトリクスは『ストックブレイク』をキリオに放つ。
だが、二人の技は不発に終わった。
キリオは両者の剣を一瞬のうちに見切り捌いたのである。
「ぬう、小癪な!!」
「ならば、これならどうです!!」
スタイナーは『暗黒剣』を、
ベアトリクスは『ショック』を続けて放つ。
だが、やはりキリオは物の見事に二人の剣を捌いた。
これには、さすがの二人も驚きを隠せなかった。
誰にも破られたことのなかったベアトリクスの『ショック』まで無効だったのだ。
ベアトリクスは半ば自分たちに勝ち目はないと思った。
スタイナーは今の『暗黒剣』で体力を大きく削られ、自分の魔力もほとんど残っていなかった。
キリオは徐々に近づいてきた。
「もはや、これまででしょうか・・・?」
「いや、諦めるな、まだ手は残されているのである。」
「何です?」
スタイナーは己の秘策をベアトリクスに話した。
「わかりました、やってみます。」
キリオは二人が何かしようとしているのを見てその歩みを止めた。
スタイナーは剣を垂直に構えた。
ベアトリクスはスタイナーの剣に魔力を集中させた。
『アイスブランド』が白く光り始める。
そしてスタイナーはキリオへ斬りかかっていった。
「ゆくぞ!! 『魔法剣ホーリー』!!!」
キリオはスタイナーの一撃を受け止めるが、魔法剣の効果はそこから発動するのである。
キリオの体が白い光に包まれる。
そして次の瞬間、聖なるエネルギーの大爆発が起きた。
スタイナーは相手を仕留めたと確信した。
この爆発から逃げる事は絶対に不可能だった。


やがて爆発が収まり地面には大きな穴が開いていた。
「倒せたのですか?」
ベアトリクスが尋ねる。
「辛うじてではあるが、おそらく・・・。」
スタイナーが答える。
二人は疲れきっていた。
全ての力を使い果たしたのだった。
だが休んでいる暇はなかった。
上空には巨大な目が浮かんでいたし、城の方で先程爆発音がしたためガーネットの身が心配だった。
二人は城へ向かおうと来た道を引き返そうとした。
その時二人は見たのだった。
前方に今倒したはずの敵――――キリオが何事もなかったかのように立っているのを。
「まさか・・・信じられぬ。」
「あの爆発からどうやって・・・?」
二人は自分の目が信じられなかった。
キリオは『魔法剣ホーリー』の直撃を受ける直前、紙一重の差で古代魔法『テレポ』を唱えていたのだった。
しかし、その後の行動がさらに二人を愕然とさせた。
キリオは剣を垂直に構え、左手から魔力を放出し『カオスブレイド』へと集中させた。
剣が見たこともないような色に光り始める。
キリオは二人をまねて『魔法剣』を放とうとしたのだった。
キリオが二人に向かって斬りかかる。
すぐに剣を構えるが遅かった。
キリオが剣を振り下ろした瞬間、先程の何倍、いや何十倍もの爆発が起きた。


爆発が収まり地面には底が見えないほどの穴が開いた。
スタイナーとベアトリクスの姿はどこにもなかった。
キリオが使用したのは『魔法剣アルテマ』だった。
キリオは邪魔者がいなくなったため、城へと再び進み始めた。
まだ遠くに見える城の方を見てみると、
ちょうどジタン、ガーネット、エーコの三人が城門から出てきたところだった――――


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