FINAL FANTASY \ PLUS



一章 (2)


 エーコからの説明は次のようなものだった。


 ガーネットたちが引き上げてから数日後、ジタンはイーファの樹の近くで、クジャと一緒に倒れていたところを捜しに来たミコトによって発見されたのである。
 すぐさま黒魔道士の村に運び込み、偶然マダイン・サリでモーグリたちとお別れをしていたエーコも駆けつけて魔法による応急処置を行ったのだが、あまりにも傷が深すぎたために、二人ともそのままリンドブルムへと運ばれた。
 クジャを治療することには皆が表情を曇らせたが、ミコトやビビの説得により、厳重な監視の下で治療を行うことを許された。
 そして懸命な治療の結果、ジタンは夏の終わり頃に意識を回復し、冬の初めには傷もすっかり完治した。
 意識が戻ってからも、何故か夜中になるとうなされてはいたが。
 一方のクジャはジタンよりも早く覚醒していたが、ある日、突然リンドブルムから姿を消した。
 誰もが不安になったが、姿を消すまでの彼は非常に大人しく、あの時のような絶望と狂気に満ちた表情も完全に消え失せていたため、ミコトがもう心配いらないと、皆を説得した。


 ジタンの生存を誰にも知らせなかったのには理由があった。
 彼の容態がいつ急変するか分からなかったからだ。
 生存を知った後でジタンに万一のことがあれば、ガーネットの悲しみは計り知れないものになる。
 シドはそれを危惧し、これを極秘にしたのだった。
 さらに完治した後はジタン自身が反対していた。
 理由は一つ。
「ダガーを驚かせてやりたくてさ。」
 単なる彼の悪戯心からだった。
 しかし、さすがにタンタラスの仲間たちに知らせないわけにはいかなかった。
 知らせたその日のうちに全員がジタンの病室に押しかけて、再会の喜びを分かち合った。


 そして12月の中頃、ジタンはついに愛しの姫君と再会するため、リンドブルムから旅立った。
 ヒルダガルデ3号でアレクサンドリアまで送るというシドの勧めを彼は辞退した。
 途中、ク族の沼に立ち寄ってクイナにも逢っておきたいというのが理由だったが、気恥ずかしかったというのが本音だろう。
 エーコがジタンを最後に見たのは、地竜の門から出発する彼の後ろ姿だった。


「ちょうど、あれから一ヶ月になるわ。だから、とっくに着いてると思ってたの……。」
 スタイナーとベアトリクスは、喜びと驚き、そして不安が入り混じった複雑な表情をしながら聞き入っていた。
「ねぇ、このことダガーに教えたほうがいい?」
 エーコの訊ねにスタイナーは黙ったまま首を振った。
 ジタンが生きていたことは喜ばしかった。
 しかし、一月も前に出発しながらアレクサンドリアに未だ到着していないのである。
 ジタンの身に何か起きたと考えるのが自然だろう。
 もし、ガーネットにこのことが知れたら、彼女が何をするかは容易に想像できた。
「私も、スタイナーの意見に賛成です。」
 ベアトリクスも同意した。
「わかったわ。」
 エーコが頷くと同時に、客室のドアがノックされた。
「エーコ、すっかり遅くなってごめんなさい。入ってもいいかしら?」
 声の主はガーネットその人だった。


 スタイナーとベアトリクスは、二人に気を利かせて退室した。
「エーコ、久しぶりね。元気だった?」
 ガーネットは部屋に入るなりエーコに明るく笑いかけた。
「えっ、う、うん! エーコはいつも元気いっぱいよ!」
 エーコはガーネットとの談笑を楽しみながらも、ジタンのことを悟られまいと必死だった。
 しかし、隠そうとすればするほど、しどろもどろの言い方になってしまうのが自分でも分かった。
 だが幸いなことに、ガーネットは終始何の不審も抱かない様子だった。
 それが却ってエーコには不思議だったが、ガーネットはニブチンだからだと自分に言い聞かせた。


 夕方になり、エーコはリンドブルムへと帰っていった。
 帰り際、ジタンの捜索を養父にお願いしておくとスタイナーとベアトリクスに言い残して。


 そして日が沈み、夜が訪れた。
 ガーネットは夕食が済むとすぐに自室に引き篭もった。
 普段よりも早い就寝だったが、誰も不審には思わなかった。
 それからしばらくの間、部屋の中で何やらガサゴソと物音がしていたが、それすら誰も気が付かなかった。


 翌朝、ガーネットがなかなか起きてこないのを心配した女官長が部屋の中を覗いてみると、彼女の姿が影も形も無くなっていた。
 女官長は慌てふためきながら、スタイナーとベアトリクスに知らせた。
 駆けつけた二人が部屋を調べた結果、どうやらガーネットは窓からロープを下ろして部屋を抜け出し、新しく造られた地下道へ入り、ガルガン・ルーを利用してトレノへ向かったらしかった。


 卓上には手紙が残されていた。

『スタイナー、ベアトリクス、ごめんなさい。わたくし、あなたたちとエーコの会話をドアの前で全て聞いてしまいました。自分勝手なことだとは充分承知しています。でも、どうしてもジタンに逢いたいのです。どうか追いかけて来ないでください。ガーネット』


「やはり、こうなってしまったか……。」
 スタイナーは溜め息をついた。
 だが、このまま彼女を追いかけない訳にはいかない。
 出発した時間から推測して、トレノに到着したのは深夜だろう。
 ということは、昨夜はそのままトレノで宿を取ったはずだ。
 今から追いかければ間に合うかもしれなかった。
―――姫さま、今すぐこのスタイナーが連れ戻しに参りますぞ!


 こうして、ガーネットは再び外の世界へと飛び出したのだった。
 やがてこれが、ジタンを捜す旅からガイアの存亡をかけた戦いへと変化するのだが、この時はまだ誰もそれを知らない―――




                                        




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