狩猟祭’00(1)


1800年 1月20日 


ここはリンドブルム巨大城――――
ジタンが狩猟祭に出場するため準備をしていると文臣オルベルタが来て大公がお呼びだから大公の間に来るように言われた。
「何だよ、もうすぐ始まるってのに・・・。」
渋々ながらも行ってみるとブリ虫にされてしまっているシドが玉座に座って待っていた。
「急に呼び出してすまんブリ。」
「別にいいけど用って何だい?」
「その前におぬしに言っておくことがあるブリ。」
シドは本題に入る前にジタンに自分とバクーは知り合いである事、ガーネットを攫うようバクーに頼んだのは他ならぬ自分である事を説明した。
(本当はヒルダの魔法のせいでこんな姿になったことは当然伏せた。)
「そうだったのか。道理でリンドブルムじゃ盗みはするなとボスがいつも言ってた訳だぜ。」
ジタンは納得して頷いた。
「それより本題じゃがおぬしに一つ頼みがあるブリ・・・。」
「このオレに頼み事?」
「一時間後に始まる狩猟祭ではおぬしにどうしても優勝してもらいたいブリ。」
「? どういうことだ?」
シドに代わってオルベルタが説明した。
「実は大公殿下がこのようなお姿になっておられるという事実はまだ、あなた方を除いては私とゼボルト機関長、そして、一部の兵士、技師、パイロットしか知らないのです。もし他国から来た者が優勝してしまい大公殿下のことが大陸中に知れたら国家の威信に関わります。また、大公の妃でありますヒルダ様が攫われたという事もまだ国民は知りません。ヒルダ様は病気ということにしてあるのです。」
「何で隠しておく必要があるんだ?」
それにはシドが答えた。
「アレクサンドリアのこともあるからブリ。ワシのことが知れたら向こうは我らを侮って攻め込んでくるかもしれんブリ。本当はガーネット姫を連れて来た後、バクーに頼もうかと思っておったのだがそれが叶わぬ今、おぬしに頼むしかないブリ。」
「わかったぜ、それにオレには他にも優勝しなきゃいけない理由もあるしな。」
「?」
「じゃあ、客室でみんな待ってるからオレはもう行くぜ。」
シドとオルベルタの疑問を他所にジタンは客室へと向かった。


その頃工場区では、居酒屋『死の宣告』で一組の男女が朝食を取っていた。
女は男にペラペラと一方的に話をしていた。
「それでさぁ、隣の部屋のモーグリが『クポクポ』うるさくて眠れやしないのよ。あんまりむかついたから苦情を書いてやったわ!・・・ねえ、聞いてるの!?」
「・・・。」
男は黙ったまま食事を口に運んでいた。
「まあいいわ。私はね、この大会で優勝して宝石をたんまり頂くの。ダンナは何をもらうつもり?」
この二人もどうやら狩猟祭に参加するつもりらしい。
「賞品など欲しいとは思わないな。」
ようやく男は静かに答えた。
「じゃあ、あんたはなんで参加する気になったのよ?」
「俺が追っている男が参加するかもしれんからだ・・・。」
その時、数人の警備兵が酒場に入ってきた。
その中の一人が男を指差しながら叫んだ。
「おい、あそこにいたぞ!!」
他の兵士たちも男を見て叫んだ。
「間違いない、『焔色のサラマンダー』だ!!」
「捕まえろ!!」
「ちっ!!」
『焔色のサラマンダー』と呼ばれた男は警備兵を突き飛ばすと酒場の外へ逃げていった。
「大変ねえ、賞金首というのも。」
女はクスクス笑いながらそれを見送った。
これによって、男は狩猟祭に出場することはできなくなってしまった。


一方、商業区ではコックの姿をした人物が商店通りをふらふらと歩いていた。
その人物は食べ物を探していた。
「何かおいしいものでもないアルか〜。」
しかし、間もなく狩猟祭のため全ての商店は店を閉めていたのだった。
その時、その人物の耳にリンドブルム士官の声が聞こえてきた。
「え〜、他に狩猟祭に参加する選手の方はいませんか〜?」
その人物はそれを聞いて士官に話し掛けた。
「『シュリョウサイ』とは何アルか?」
「知らないのですか? 年に一度のお祭りですよ。」
「お祭りアルか? お祭りならおいしいもの食べれるかもしれないアルな。ワタシ参加するアルよ。」
「そうですか。では、ここにお名前をご記入ください。また、『望みの品』は何になさいますか?」
「フヌ・・・『ノゾミノシナ』とは何アルか?」
「あなたが今一番欲しい物のことですよ。」
その人物はそれを聞くと興奮しながら言った。
「欲しい物アルか! ワタシはカエルがたくさん欲しいアルよ!!」
「(カ・・・カエル?)わかりました。あなたのスタート地点は商業区になります。ところでお名前の方は・・・。」
「ここに書いたアルよ。食べ物のスタート地点は商業区アルな?」
そう言うとその人はスタート地点へ走っていった。
「変わった人だな。さて、名前は・・・な、なんて下手な文字なんだ?」
あまりにも下手な文字のため登録された名前はその姿などから『謎の食通』ということにされてしまった。


さらに同じ頃、劇場街では――――
「ギルの兄貴、わてらが絶対優勝するで!」
「当たり前だぜエンキドゥ。オレたち二人が力を合わせれば優勝間違いなしだ!!」
4本腕の男(アレクサンドリアでビビにカードを教えた裏通りのジャック――――本名は不明。)が弟分のエンキドゥと狩猟祭についての会話をしていた。
二人は自信ありげのようだった。


出場する選手は他にもいた。
毎年出場している漁師とリンドブルム城の料理長(この二人は共に優勝候補と目されている。)、今年の大会に向けてトレーニングをしてきた青年、ジタンがよく知っている兄弟の末っ子。皆、優勝するのは自分だと意気込んでいた。


狩猟祭スタートまで後1時間――――


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