狩猟祭’00(2)





リンドブルム商業区では、間もなく開催される狩猟祭に向けて、リンドブルムの兵士たちが着々と準備を進めていた。
「いくら伝統行事だからって少々、荒っぽすぎやしないか? 特に、あのデカイ奴には何人もやられてるんだぞ・・・・・・。」
リンドブルムの士官が準備をしている小隊長に言った。
「いやいや、そこがよいのです! これぞ男の祭り! 血がさわぎますな!」
小隊長は参加するわけでもないのに熱くなっていた。
「商業区はこの馬車で最後です! これで狩猟祭の準備すべてととのいました!」
兵士が士官に報告した。
「じゃあ、あとは上の合図を待つんだ。」
「わかっております!」
その時、馬車の後ろの扉が倒れ何頭ものファングが飛び出してきた。
「げっ!!」
士官と兵士は慌てて逃げ出した。
「・・・・・・・・・・・・。」
情けない上官の姿を見て小隊長は少々呆れてしまった。


一方工場区では――――
「予定よりもだいぶ早くファングが放されたようです。」
ここを任されている兵士が女性士官に報告した。
「あぶないわねえ〜、まだオルベルタ様から指示は来ていないのに。」
「上でもまもなく獣を放すと思われますが・・・・・・。」
「そうね、奴が出てくる前にムーを放しちゃいましょう! 急いで!」
二人がその場を離れると同時にムーの群れが放された。


そして、リンドブルム城の城門の上では――――
「準備、ととのいましたー!」
下から報告があった。
「よーし、そのまま待機!」
兵士は城門の上から指示をした。
城門の上にはその兵士以外に老人がいた。
老人は狩猟祭の目玉モンスターの飼い主だった。
「今年の奴は今までになく絶好調じゃ! 誰にも倒せんじゃろ!」
その時、城門が強い衝撃を受けた。
中で何か巨大な生き物が体当たりをしたのだった。
「ヒャハハ、元気じゃの!」
老人は満足そうな笑みを浮かべた。
兵士が慌てて老人に駆け寄った。
「おいっ、やめさせろ! まだこいつを出すのは早い!」
「知らんよ、奴は自由じゃ、わしの言うことなどきかんて。」
そうしている間にもドシン、ドシンと門がモンスターの体当たりの衝撃で揺れ動く。
「くそっ!」
兵士はすぐに下へ指示を出した。 
「すぐに門を開けさせろ、城壁が崩されてしまうぞ!」
「ゆっけ〜い! ザグナルちゃん!!」
門が開けられ老人の合図と同時に、ファングやムーとは比べ物にならないほどの巨体と牙を持ったモンスターがズシン、ズシンと地響きを立てながら門から出て行った。
「じいさん、それにしても毎年毎年よくあんな奴を捕まえられるよなあ。」
兵士は毎年のことながら改めて感心した。
老人が今年のようなモンスターを用意したのは3年ほど前からだった。
それまではせいぜいアックスビークあたりがやっとだったのである。
「ヒャハハ、捕まえたのはわしじゃないわい。ちょっとした知り合いの男が捕まえたんじゃ。つい数日前までは街にいたんじゃがのう。」
「それは残念だ。一度会ってみたかったな。」
兵士はいかにも残念そうな顔をした。


その頃、客室にはビビ、ガーネット、スタイナー、フライヤがいた。
(ジタン、おそいなあ・・・・・・。)
ビビはジタンが来るのを待っていた。
「息抜きも必要であります!」
「ええ・・・・・・。」
この城に来てから憂鬱そうな顔をしていたガーネットを心配したスタイナーは彼女に狩猟祭見物を勧めていた。
(ジタンは腕を上げたかのう・・・・・・?)
初めて出会った3年ほど前よりもジタンがどれだけ成長しているかフライヤは楽しみだった。
そこへ、ようやくジタンがやって来た。
「わっりぃ、わりぃ! ちょっと準備をしててさ。」
「では、そろったところで、狩猟祭のルールをご説明しましょう。」
リンドブルムの上級兵がジタンを見て少々顔色を悪くしながら
(実は昨日ジタンがガーネットに会いに行くために彼を騙して衣服を剥ぎ取り、この客室のクローゼットに閉じ込めたのである。彼は閉所恐怖症だったため、その恐怖は相当のものだったらしく数時間後にジタンに開放された時には目の前の人物の仕業であることも忘れて泣きながら感謝した。そのため、ジタンを罪に問うことはできなかった。)
狩猟祭のルール説明を始めた。
「『望みの品』はもうお決まりですか?」
説明を終えた後、上級兵が聞いた。
「ああ、オレはやっぱりギルだぜ!」
「私はアクセサリにしようか。」
ジタンとフライヤはそれぞれ『望みの品』を伝えた。
「ビビ選手は何にしますか?」
「え、えっ! ボクも出るの!?」
ビビはいきなり言われて困惑した。
「おまえならイイ線いくと思ってオレがエントリーしといてやったんだ。黒魔法があればどうってことないって、なっ?」
ジタンがビビを説得した。
「で、でもぉ〜。」
ビビは困ってしまい俯いてしまった。
「相変わらず勝手じゃな。」
フライヤは苦笑した。
ジタンは3年前に会った時からそうだったのである。
「そうだ!」
ジタンはビビに小声で話し掛けた。
(おまえがもし優勝したらダガーとデートさせてやる!)
「お、お姫さまとデート!?」
ビビは思わず大声を出した。
(シ、シ〜ッ!声がデカイって!)
ジタンが慌ててビビの口を塞いだ。
「むむっ!なんだ、今、姫さまがどうとか聞こえたぞ!」
ガーネットにも聞こえたらしく明らかに怒ったような表情をした。
スタイナーが二人の所へ駆け寄り怒鳴りつけた。
「またなにかよからぬことを!」
「なんでもないって、なあ、そうだろ、ビビ?」
「う、うん!」
ジタンはともかくビビがそう言うのでスタイナーはそれ以上追求しなかった。
ガーネットは内心(なんでもないことないでしょ!!)と思っていたのだが・・・。
「どうなされますか?」
上級兵が再び尋ねた。
「あっ、じゃあボクはカードを・・・・・・。」
ビビがそれを欲しがったのは、最近アレクサンドリアでカードについて教えてもらい興味を持ったからである。
「わかりました、ギル、アクセサリにカードですね。そろそろお時間です。ジタン選手は劇場街、フライヤ選手は工場区、ビビ選手は商業区へ向かってください。」
3人はそれぞれのスタート地点へ向かった。


そして、ついに狩猟祭が始まった――――



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