テラの守護者(1)『潜入』


1800年 2月23日 


飛空艇ヒルダガルデ3号がイプセンの古城から南へと飛行していた。
イプセンの古城を探索したジタンたちは、
この世界ガイアと異世界テラを結ぶ『輝く島』の封印を解くための手掛かりと、
そのカギとなるであろう4枚の鏡を手にいれることに成功した。
そして、今度はその手掛かりをもとにして、世界各地に点在する4つの祠を二人ずつに分かれて同時に攻略することになった。


ここはヒルダガルデ3号のデッキ――――
他の仲間には内緒でエーコがビビに何か相談をしていた。
「いい? エーコはダガーと一緒に行くから、ビビも絶対ジタンと一緒に行くのよ?」
「う、うん。」
エーコからある計画を聞かされたビビは最初は非協力的だったのだが、結局押し切られてしまった。
「エーコ、どこだ〜?」
ジタンがエーコを呼ぶ声が聞こえた。
そろそろ『水の祠』へ到着するのだろう。
「あっ、いけない。じゃ、エーコの計画どおりにね?」
そしてエーコは走っていってしまった。
残されたビビは困ったように帽子を直した。


『水の祠』――――
ここはガーネットとエーコが攻略することになっていた。
ジタンは二人を入口まで送った。
「本当にだいじょうぶか? ふたりだけで・・・・・・。」
「ふたりずつにわかれて攻略って言ったのはジタンでしょ?」
「なあに? エーコとダガーが信用できないの?」
「いや・・・・・・そういうわけじゃないけどさ・・・・・・。」
口ではそう言ったが、女の子二人だけで行かせるのはやはり不安だった。
「ふんだ! どーせジタンはダガーといっしょに行きたかったんでしょ!」
ジタンはぎくりとした。
確かにそれは図星だった。
ガーネットと二人きり――――
そうなればガーネットにいいところを見せることができ、あわよくば熱いチューのひとつでも――――とジタンは思っていた。
「同時に攻略するためには他の場所へも早く行ったほうがいいんでしょ?」
そんなジタンの思惑など全く気づきもせずにガーネットが確認した。
「ああ、そうだな・・・・・・。」
「次はどのポイントに行って、誰と誰に調べてもらうの?」
「『我が力は高き山の熱き場所にて守られる』か・・・・・・。サラマンダーとフライヤあたりに頼もうかと思ってる。」
「ほら、早く行った行った! いつまでこんな所にレディふたりを待たせるつもり?」
エーコが促した。
「それじゃ、後で迎えに来るからな!」
ジタンは飛空艇へ戻っていった。
「さて・・・・・・おじゃま虫はいなくなったことだし、女同士じっくり行きましょ。」
「・・・・・・じっくり?」
ガーネットはその言葉がどこか引っかかる物があったが、
たいして気に留めずにそのまま祠へと入っていった。


しばらくして、
閉ざされた大陸にある『火の祠』上空――――
火口の中に祠の入口があるため、飛空艇は火口に降下するしかなかった。
そのためエンジンが限界以上の熱を帯びた。
「このままじゃオーバーヒートですよ!」
飛空艇の船員がジタンに危険を伝えた。
「もう少しだ、もう少しだけ頑張ってくれ!」
「ジタン! これ以上近づくと危険じゃ!火山の熱でエンジンがもうもたぬぞ!」
フライヤも船員と同じ意見だった。
「よし・・・・・・ギリギリまで接近した後、ふたりは祠の入口に向かってくれ!」
「・・・・・・なぜ俺がこの女と一緒なんだ?」
サラマンダーが不服そうに言った。
「あ、エーコと一緒がよかったか?」
ジタンがにやついた。
「・・・・・・。」
サラマンダーは無言で出口へ歩いていった。
「頼んだぜ!! さて・・・・・・お次は『我が力は何人をも近づけぬ強き風の奥にて守られる』か・・・・・・。スタイナーとクイナが一緒じゃ、少々無茶しちまいそうだからな・・・・・・。
よし、ビビにスタイナーのおもりを頼むとするかな・・・・・・。」


しばらくして、
『風の祠』へ向かう途中の船内――――
「ビビ、次の祠はスタイナーと一緒に行ってくれ。」
「えっ、でもボク・・・。」
ビビは困ったような顔をした。
「何だ? 何か問題でもあるのか?」
「ううん、そういうわけじゃ・・・。」
「おっさんじゃ頼りにならないのはわかるけどがんばれよ。なあに、ビビなら一人でも楽勝だぜ。」
ジタンが元気付けた。
「う、うん・・・。」 
控え目なビビはそれ以上何も言えなくなってしまった。


それから間もなくして、忘れ去られた大陸にある『風の祠』――――
祠の方角からものすごい風が吹きつけていた。
「な、なんだか風が強そうだね・・・・・・。」
ビビが不安そうに言った。
「風の祠だけあって、強風に守られてるって訳か・・・・・・。出口まで行くのも大変そうだぜ? 飛ばされないように気をつけろよ。」
ジタンが注意した。
「臆することはないのである! ビビ殿は自分の後についてくれば良い。」
「う、うん・・・・・・。」
スタイナーが物凄い強風の中進み始めた。
ビビもスタイナーの影に隠れながら続く。
「この通り! 風などなんてことはないのである!」
スタイナーはこの強風の中平気な顔で直立していた。
「ほんと?」
ビビがスタイナーの横から体を出す。
その途端、ビビの小さな体が吹き飛ばされかけた。
「ビビ殿!!」
スタイナーがすぐにビビの前に立つ。
「スタイナーは鎧着てるから平気なだけだろ?」
ジタンが呆れながら言った。
「行きますぞビビ殿!!」
二人は入口へと少しずつ進み始めた。
「大丈夫か・・・・・・あいつら・・・・・・。」
不安が拭い切れないジタンだった。
しかし、すぐに自分の置かれている状況にも気がつく。
「でもこっちも次はクイナと一緒だからな・・・・・・。人のことなんて言ってられないか・・・・・・。
装備とか、クイナの使える青魔法を確認しておいた方がいいかもな・・・・・・。『我が力は動く地の底にて守られるか』・・・・・・。」


しばらくして、
ヒルダガルデ3号は『地脈の祠』に到着した。
ジタンとクイナは祠へと入っていった。
「それじゃ、行くとしますか・・・・・・」
ジタンが先頭で地下へ続く階段を下り始めた。
「ジタン、ワタシと行きたかったアルね!」
クイナは嬉しそうだった。
「・・・・・・ま、なんつーかその・・・・・・。残り物にあたったというか・・・・・・。」
「照れなくてもいいアル!ワタシ、うれしいアルよ!」
「は?」
別に照れているわけではない、
むしろ、皮肉を言ったつもりなのだが、クイナが怒るどころか『うれしい』と言うとは意外だった。
「ク族のことわざでは、こういうふうに言うアル・・・・・・。
『残り物にはおいしいものがアル』!!」
「・・・・・・この祠も残り物でおいしいものがあるといいな。」
ジタンは苦笑した。
「きっとおいしいものだらけアル!」
クイナはいつでも楽天的だった。
ジタンもかなり楽天的な方なのだがクイナほどではない。
ジタンはクイナのその何でも自分の良い方へと考える性格を少し羨ましく思った。


二人は階段を下りきり、通路をさらに奥へと進み始めた。
魔物の気配はまるでしなかった。
数々の危機を乗り越えた二人には少々拍子抜けだった。
「なんだかガラ―ンとして何もいなさそうアルよ・・・・・・。」
「そうだな・・・・・・。」
その時二人の足元が微かに揺れた。
「ん?」
常に注意深いジタンはそれに気付いた。
「どうしたアルか?」
クイナは気付いていないようだった。
「今、なんだかゆれたような・・・・・・。」
その時だった。
地面がせり上がり、壁が二人に向かって押し寄せてきた――――
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