FINAL FANTASY \ PLUS
序章
この物語の始まりは、二人の別離からだった――――
黒髪の見目麗しい少女が、徐々に上昇していく飛空艇の甲板から、金色の髪のシッポの生えた少年を見つめていた。
少年は笑顔を浮かべていたが、少女には解っていた。
それが自分を心配させまいとする偽りの笑顔であることを。
飛空艇が遠ざかると共に、少年の姿がゆっくりと小さくなっていった。
少女は飛空艇から半ば身を乗り出しながら、ずっと少年の姿を追っていた。
だが、少年の姿が視界から完全に消えた瞬間、とうとう堪え切れなくなり、少女は嗚咽を漏らし始めた。
眼下では、荒れ狂う樹の根が、まるで意思を持ったかのように大地を破壊していくのが見える。
少年は、あのような危険な場所に残ったのだ。
何が何でも、思い留まらせるべきだったと少女は後悔した。
できることなら、今からでも少年を連れ戻しに行きたかった。
だが、時はすでに遅すぎた。
樹の根が、先程まで彼がいた場所までも呑み込んでしまったのだ。
その瞬間、少女の心は恐怖と絶望に支配された。
微かに、そして確かに少年の叫び声が聞こえたからだ。
少女は思わず叫んでいた。
ジタン!
「―――っ!」
ガーネットは目を覚ました。
場所が自分の寝室であったことに安堵し、半身を起こして震える自分の身体をギュッと抱き締める。
長い時間、悪夢にうなされていたのだろう。
肌寒い季節のはずなのに、寝巻きは汗でびっしょりとなっており、心の臓が早鐘を打っていた。
「また、この夢……。」
アレクサンドリアに戻ってからは幾度もこの夢を見た。
眠れない夜もあった。
いや、彼女が安らかに眠れた夜など一夜としてなかった。
「ジタン……。」
ガーネットは、あの日から行方不明となってしまった恋人の名を口にした。
すると、しだいに身体の震えは収まり、胸の鼓動もゆっくりとなっていった。
いつの頃からか、ガーネットは自分の心が恐怖に陥った時、彼の名を口にするようになっていた。
これが彼女にとって、恐怖を追い払うことのできる唯一の方法だったからだ。
「ジタン……。」
完全に心が落ち着いたところで、もう一度、彼の名を口にしてみた。
逢いたい……。今すぐにでも捜しに行きたい……。
ジタンと別れてから十ヶ月以上にもなるが、彼を一日たりとも忘れたことは無かった。
むしろ日が経つに連れ、彼への慕情は募る一方だった。
イーファの樹の捜索を行ったリンドブルムから、ジタンを発見することが出来なかったという知らせが届いてからも、それが変わることはなかった。
ジタンは、きっと生きている。
ガーネットはそう信じて疑わなかったのである。
彼女はベッドから降りると、首の付け根にまで届くほど伸びた黒髪を整えつつ、窓から外を眺めた。
もうすぐ夜明けなのだろう。東の空が白み始めていた。
この日はアレクサンドリア王女、ガーネット・ティル・アレクサンドロスの17歳の誕生日だった。