テラの暗殺者U


1800年 1月25日 AM 3:00


ここはリンドブルム高原――――
ジタンたちの目の前で三国一と言われたリンドブルム巨大城が、
そして美しい城下町が次々と黒魔道士兵たちによって破壊されていった。
そして、突然夜空に巨大な召喚獣『アトモス』が姿を現しリンドブルムの住民や兵士、
さらに黒魔道士兵たちごとリンドブルムの主に工場区の辺りを吸い込み始めた。
ガーネットは堪らなくなり地面に崩れ落ちた。
それを見たジタンはガーネットに優しく手を差し伸べた。
ガーネットは我を忘れてジタンの手に縋って泣いた。
『アトモス』が消滅してからもしばらく泣き続けた。


「ダガー、もう、大丈夫か?」
しばらくして、ガーネットが泣き止んだのを見てジタンが声を掛けた。
「ええ、もう大丈夫・・・。」
ガーネットはようやく立ち上がりながら答えた。
しかし、その顔は哀しみの表情を浮かべていた。
「でも、リンドブルムがこんなことに・・・。シドおじさまやオルベルタ様たちが心配だわ。」
「そうだな。行こう。」
その時ジタンは足音を聞いた。
「ビビか?」
振り向いたその先にはビビではなく、
後ろ髪を長く伸ばしたオールバックの黒髪に黒ずくめの服と黒マントをした
自分より1、2歳ほど年上と思われる少年――――キリオが立っていた。
ジタンが「誰だ?」と尋ねるより早くキリオは漆黒の剣――――『カオスブレイド』を抜いて
二人に向かって――――というよりもガーネットに向かっていきなり斬りかかってきた。
ジタンもすぐに先程ピナックルロックスで拾ったばかりの『オーガニクス』を構えた。
そのため、キリオは剣の切っ先をガーネットからジタンへと変更した。
キリオの鋭い一太刀ををジタンは辛うじて受け止めた。
しかし、キリオは次から次へと剣を繰り出す。
ジタンは受け続けるのが精一杯だった。
さすがのジタンも息が上がり始める。
(何だこいつは? ベアトリクス並に剣が速い上に、一撃がスタイナーと同じくらい重い・・・。)
もちろん、ガーネットもただ黙って見ていたわけではない。
『プロテス』を唱え、ジタンの守備力を上昇させると同時に、
『ケアル』をいつでも唱えられる準備をしていた。
だが、それ以上は何もできなかった。
ついに受けきれないと判断したジタンは、距離を置いて『オーガニクス』を構え直してキリオに向けて『刀魂放気』を放った。
キリオの目の前に暗闇が広がる。
「今だ!!」
ジタンはその隙にキリオに斬りかかった。
ジタンもガーネットも勝利を確信した。


しかし、キリオは冷静に左腕をジタンに向けて『ファイガ』をジタンに放った。
「なっ!?」
ジタンは危ういところでそれをかわす。
さらにキリオは『エスナ』を自らに唱え暗闇状態を解除した。
「くそっ!!」
ジタンはもう一度『刀魂放気』を放とうとするが、キリオは二度もそんなチャンスを与えなかった。
すぐにジタンとの距離を縮め斬りかかる。
ジタンはなんとか受け止めるのがやっとだった。
しかもキリオはそのまま力任せに押し切ろうとする。
それでいて、目はガーネットの方にも向いており加勢させる隙を与えなかった。
ジタンの力ももはや限界に近づいていた。


その時だった。
「ジタン、伏せて!!」
誰かの声がジタンの耳に届いた。
その声を聞いたジタンはとっさに伏せた。
そのジタンの頭上を超えて炎の玉がキリオ目掛けて飛んできた。
キリオは炎の玉の直撃をまともに受けて10メートル以上も吹き飛び地面に叩きつけられ、そのまま動かなかった。


「大丈夫だった?」
「ああ、サンキュー、ビビ。」
炎の玉――――『ファイラ』をキリオに唱えたのはジタンたちに遅れて今ここにたどり着いたビビだった。
「でも、あの人は誰なの?」
ビビは当然の疑問をジタンに投げかけた。
「さあな、夜盗の類じゃないのか。」
ジタンはそう答えるしかなかったが、自分でも何者か知りたいくらいだった。
「動かないけど、大丈夫かなあ?」
「心配すんな、多分気絶しているだけだろ。あんな目にあったんだ、もう襲いかかってこないだろ。」
それより――――
「おい、ダガー立てるか?」
「えっ、う、うん、大丈夫。」
ガーネットは安心したとたん腰が抜けてしまっていたのだった。
「じゃあ、早くリンドブルムに行こうぜ。シドのおっさんたちが心配だからな。」
「ええ。」
「うん。」
三人はリンドブルムに向かって駆け出して行った。


しかし、走りながらジタンは思った。
(最初あいつはダガーを狙っていなかったか? 普通なら邪魔者になるオレから殺しに来るんじゃないのか? それに夜盗にしては腕が立ち過ぎる。)と。
しかし、リンドブルムに到着し、その無惨な光景を目の当たりにしたために、
いつのまにかその考えを忘れていた。


しばらくして、ここはジタンとキリオが戦った草原――――
ジタンの考えていた通りキリオは生きていた。
しかし、気絶は最初からしていなかった。
キリオは生まれて初めて痛みと敗北というものを知った。
それはどういうものなのかを頭の中で整理し理解していたのだった。


丸一日そうした後、キリオはようやく立ちあがった。
傷や火傷は『ケアルラ』で一瞬の内に治った。
そして、テラの古代魔法『サイトロ』を唱えて辺り一面を見回し、
ク族の沼に入ろうとしているジタンたちを発見した。
キリオはジタンたちの後を追い始めた。
任務を今度こそ遂行するために――――

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