テラの暗殺者T(2)
1794年 3月?日 PM22:00
「なんだ、今の悲鳴は!?」
村人の一人が叫んだ。
「私が見て来よう。」
コーネルが立ち上がって外へ出ていった。
そして、広場まで来た時コーネルは目を疑った。
目の前に地獄絵図が広がっていたからだった。
村人数人が血まみれで死んでいたのだ。
さらにそこには一人の少年が立っていた。
少年は見た目17、8歳くらいで、
後ろ髪を長く伸ばしたオールバックの黒髪に黒ずくめの服と黒マントをしており、
右手には闇よりも暗い色をした剣――――『カオスブレイド』を持っていた。
「き・・・君は誰だ!? 君が彼らをこんなにしたのか!?」
コーネルは驚愕しながらも少年に問いただした。
しかし、少年――――キリオはそれには答えずにいきなりコーネルに斬りかかってきた。
その剣閃は素早くコーネルにはとても避けきれかった。
次の瞬間、コーネルの肩口から血が吹き出していた。
「うぐっ!!!!」
激しい痛みがコーネルを襲った。
キリオは続けて剣を振り下ろす。
コーネルは辛うじて剣をかわしキリオと距離を置いて召喚魔法を唱えた。
「出でよ『イフリート』!!」
しかし、『イフリート』は召喚されなかった。
「そんなバカな!」
なぜなら、キリオは最初の一撃と同時にコーネルに『サイレス』をかけていたからだった。
その隙にキリオは一瞬でコーネルとの距離を縮め真正面から剣を浴びせる。
コーネルはまともに斬りつけられ胸から血が溢れだした。
キリオがコーネルにとどめを刺そうとしたその時である。
「コーネル、逃げるんだ!!」
エーコの父親をはじめ村の男たちが駆けつけてきた。
「す・・・すまない。だが・・・。」
そう言っている間にも傷口から血が流れ出ている。
「心配するな、それより早く逃げろ!!」
コーネルは広場に背を向けて召喚壁へと逃れた。
(きっと大丈夫だ。みんな優秀な召喚士なのだから・・・)
そう信じて――――
召喚壁にたどり着いた時にはすでに意識が朦朧としていた。
胸の傷が致命傷になっていたのだ。
もはや回復魔法をかけたところで意味はないだろう。
召喚壁にはもう長く生きられないと悟った村人たちが、
エーコに何か残そうと彼女が生まれてすぐに召喚壁に召喚獣の事やエーコに宛てた遺言を書いていた。
文字には魔法をかけてあるため雨風では消えない仕組みになっている。
その中でコーネルは家族に宛ててこう書き残していた。
嵐の中 |
だがそこで書くのをやめていた。
ここから先は本人たちの前で話そうと思っていたから。
それまで自分はどんなことがあっても必ず生きるのだと誓っていたから。
しかし――――
「がはっ!!」
口から血を吐き出しながらコーネルは思った。
自分はもう助からない。愛する家族にはもう会えないのだ。
だから、せめて――――
コーネルは召喚壁に自分の血で文字を書き始めた。
けんかもした 態度にもあまりあらわさなかった だが確かに私はおまえを愛していた 我が最愛の妻、ジェ―ンヘ おまえがうまれてから 過ごしたすべての日々が幸せだった そのことを伝えたかった 我が愛しの娘、セーラへ |
書き終えるとコーネルは仰向けに倒れた。
苦しそうに呼吸をしながらも家族のことを思っていた。
(ジェーン・・・セーラ・・・どうか生きていてくれ・・・。私はもう――――)
コーネルは知らなかった。
愛する妻ジェーンはすでにこの世の人ではないことを――――
愛しの娘セーラは現在一国の王女として育てられていることを――――
黒い影が近づいてきた。
コーネルは思った。
(誰だ? ああ、誰かが私を探しに来てくれたのか? それともとうとうあの世からお迎えでも来たのか?)
どちらでもなかった。
コーネルは左胸に鋭い痛みを感じた。
それが彼の最後の感覚だった。
キリオはコーネルの左胸から『カオスブレイド』を引き抜いた。
そう、キリオはものの数分でエーコの父親をはじめとする村の男たちを全員殺したのだ。
そして、今コーネルにとどめを刺したのだった。
キリオはコーネルの死体に背を向けて歩き出した。
長老の家にいるだろうと思われる残りの召喚士たちを抹殺するために。
殺戮が終わり、キリオがマダイン・サリから去ったのはそれから間もなくだった――――