テラの暗殺者T(1)



1794年 3月?日 PM18:00


ここは召喚士の村マダイン・サリ――――
四年前に空に浮かんだ巨大な謎の眼球によって村は壊滅的な打撃を受け、多くの人々が死んだ。
僅かに十数人が生き残ったものの彼らの体には原因不明の傷ができ、少しずつ体が弱りつつあり長くは生きられそうになかった。
しかし、一年前に久しぶりに喜ぶべき出来事があった。
村の若い男と女が結婚し、女の子が生まれたのだ。
村の長老が名付け親となり、エーコと命名された。


そして、今日はエーコの1歳の誕生日だった。
両親をはじめ村人は皆エーコの誕生日を祝った。
エーコ本人も楽しそうにきゃっきゃと笑っている。
しかし、長老はこの場にはいない。
エーコと同じ日に生まれたモーグリのモグの生まれて一年目に行う
モーグリ特有の儀式に参加するために、
他のモーグリ達と一緒にイーファの樹の根元まで出かけているからである。


誰もが快い気分に浸っていたがその中で一人だけそんな気分になれない男がいた。
男の名はコーネルといい、村一番の召喚士である。
「どうした。元気ないじゃないか。」
友人がコーネルに声をかけた。
「いや、あの幸せそうな三人を見てると、家族のことを思い出すんだ。」
コーネルはエーコとその両親を眺めながら静かに答えた。
彼の妻はきれいな黒い瞳と美しい黒髪に可憐な花のような笑顔を持っていた。
結婚した時は村中で祝福してくれた。
二人の間に生まれた娘は容姿が母親にそっくりだった。
ただ時折見せた活発な部分は子供の頃の父親譲りだったが。


「そうか・・・。大丈夫だ、奥さんも娘さんもきっと元気な姿で戻ってくるさ。」
そう、コーネルの妻と娘はあの日、たった二人で嵐の海へ脱出したのだ。
数年経った今も二人は消息不明だった。
コーネルは一緒に行ってやれなかった自分を今でも責めていた。
(ジェーン・・・セーラ・・・)
「さあ、今日はエーコちゃんの誕生日だぜ、めでたい日にそんな顔をすんなよ。」
友人はそんなコーネルを元気付けた。
「ああ、すまない。」
コーネルはそう言いながらも悲しそうな笑顔を浮かべた。


誕生祭も終わりに近づき一人、また一人と帰っていった。
コーネルも帰ろうと席を立ったその時だった。
村の入口から恐ろしい悲鳴が聞こえてきたのは――――
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