0・プロローグ


『物語の始まり』


これはある国の姫が午後のまどろみの中で見た夢――――




嵐の夜、広い海に浮かぶ小さな筏。

荒れ狂う波にもまれ、今にも沈みそうなそれに必死にしがみ付くローブを纏った幼い少女と年若い女性。

二人は先程どこからかこの筏に乗って出航したのだった。

なぜこのような嵐の中を航海する状況に置かれたのか? 

それは誰にも判らない。

ただ、こうせざるを得ない理由があったのは確かであった。

時折雷鳴が轟き少女は不安げに女性の方を振り返る。

そして、恐怖に歪む女性の顔が雷鳴の中で浮かび上がり――――





そこで姫は夢から覚めた。

いつもの見慣れた自分の部屋にいることに胸を撫で下ろし、窓から外の景色を眺めた。

普段とは違う街の様子。

今夜は自分の16回目の誕生日を記念する公演が行われる。

そのため城下町の人々は沸きかえっているのだ。

だが、彼女には公演を楽しみにはしている暇はない。

今夜、以前から立てていた計画を実行するのだ。

かけがえのない大切な母のために・・・。

その時、遠くから今夜公演を行う劇場艇が近づいてくるのが彼女の目に写った。


その劇場艇プリマビスタ内にて――――

一人の金色の髪と尻尾をしている少年がスルスルと棒を降りて近くの部屋に入った―――
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