Tantalus' Panic! 1799




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「「「「え〜〜〜〜〜っ!」」」」
 ……という不服の叫びがリンドブルムに木霊したのは、1799年という年が明けたばかりの、穏やかな午後のことだった。
 発信源は、劇場街のとある建物。
 大きな時計が目印の、「ラッキーカラー商会」である。
「俺が昔世話んなった人だからな、おめぇらが手伝いに行くと返事しておいたど」
「げ〜〜〜っ!」
「オニっ!」
「ひどいっスよぉ〜」
「ひどすぎるずら」
「おめぇら、軟弱なこと言うんじゃねぇ。いいか、収穫のこの季節が農作業で一番楽しい季節だ。おめぇらは夏の大変な時期を知らねぇで収穫の旨味だけ味わうんだど。ありがてぇくれぇだ」
「じゃぁ、ボスが行けよ!」
 と、ジタンが頬を膨らませて抗議した。
「おう、行きてぇところだが、ちと野暮用でな」
「嘘だろ」
「ぜってー嘘だぜ!」
「ずるいっス!」
「ずるいずら〜」
 だんっ!
 バクーが大きな手で殊更激しく机を叩き、少年たちは一瞬ビクッと竦み上がった。
「おめぇら、ボスの言うことが聞けねぇのか?」
 しーんと、部屋は静まる。
「ほぅ? 聞けねぇのか。それなら仕方ねぇ、俺とて考えがある」
 と、太い指をパキポキ鳴らし出した。
「い、行くっスよ、ボス。ちゃんと言い付けは守るっス」
 マーカスが最初に折れた。
「お、おいらも命令に背いたりしないずら」
「そうか。おめぇらは行ってくれるか」
 と、バクーはにっこり。
 今度は残りの二人にぎょろりと目をやる。
「それで、おめぇらはどうするんだ?」
 ビクリ。
「わかったよ、行きゃいいんだろぉ? ちぇ」
 頭の後ろで手を組んでふてくされたジタンが言い、ブランクは溜め息をついた。
「……俺も行く」
「よし。それでこそ俺が見込んだガキどもだ」
 どこが「それでこそ」なのかよくわからないまま、四人は旅支度をさせられた。



「はい、あんたたち。タオルと歯ブラシ忘れんようにね〜」
 ルビィがジタンとブランクの部屋へやってきて、二人分のタオルと歯ブラシをベッドの上に置いた。
「なんでルビィは行かなくていいんだよ〜」
 と、ジタンが口を尖らせる。
「うちが行っても邪魔なだけやし、こっちに誰もおらんようになったらそれもまた困るやろ。せやから留守番」
 ルビィはニヤリと笑った。
「それに、都会育ちのうちには農作業なんて似合わんし」
「どこが都会育ちだよ……」
「ずり〜っ! どう考えても不公平だ!」
 ベッドの二階から飛んできた枕をいとも簡単に交わすと、ルビィはポケットから小銭入れを出した。
「それから、ブランク。これ、ダリまでの飛空艇と鉄馬車の切符代やて、ボスが。四人分入っとるから、落とさんようにね」
「あ〜、わかった」
「ほな、気ぃ付けて。あんたらが一週間もおらんなんて、寂しいわぁ」
 ルビィは愉快そうに笑いながら、部屋を出ていった。
「くっそ〜、覚えてろよ、化粧大魔王!」
 ジタンが、ドアに向かって悔し紛れに叫んだ。
 ―――と。
「……何やて?」
 そのドアが再び乱暴に開け放たれ、烈火のごとく燃えたルビィが、ほうきを握って帰ってきましたとさ。


                              




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