Resistance(6)





これは短期決戦であった。
早く城を制圧しなければ外のバクーたちがいずれ数で押し切られてしまう可能性があったのだ。
そのためブルネオを抑える事が何よりも先決であった。


スタイナーたちは城内のホールにたどり着いた。
「では予定通り、ここからは別れて行動しましょう。」
ベアトリクスがスタイナーとフライヤに作戦の確認をした。
しかし、三人がそれぞれブルネオを探しに向かおうとした時、レイガンが剣を片手に階段を駆け下りて来た。
「国に逆らう賊どもがよくも我らをコケにしてくれたな! だがここから先には通さんぞ!!」
それを聞いたフライヤが呆れたように言った。
「語るに落ちたとはこの事じゃな。つまり上にブルネオがいると事であろう?」
「ぐっ・・・貴様・・・。」
レイガンは自らの失言に焦ったが後の祭りだった。
スタイナーが前に進み出て『アイスブランド』を構えた。
「ここは自分に任せておぬしたちは先へ進むのである!!」
「分かりました。ここは頼みますよ!」
「では、ひとまずさらばじゃ!」
ベアトリクスとフライヤはレイガンの頭上を飛び越えて階段を上っていった。
「おのれ逃がさんぞ!!」
レイガンは二人を追いかけようとしたがスタイナーがそうはさせじと斬りかかってきた。
「おぬしの相手は自分である!!」
「くっ!」
スタイナーの一撃をレイガンは受け止めた。
「ちっ、まあいい、お前から先に始末してやる!」
「レイガン、おぬしもこの国の現状を見たであろう? この国とブラネ様は今おかしくなっておられるのだ。我々が手を取り合うことで全てを元に戻そうではないか!!」
スタイナーはレイガンが今までの自分のように『ブラネの命令は絶対』と考えているだけで、説得すれば同じ騎士として理解してくれると思ったのであった。
だが、レイガンはスタイナーが想像もしなかったような答えを言った。
「知ってるさ。だが、そんな事はどうでもいい。私は今の現状に満足しているんでな。」
「!! どういう事だ!?」
「お前はブラネ様がおかしくなったと言ったが、私はそのおかげで11年間の国境警備からようやくこの城の指揮官に出世できたのだ。今更元に戻りたいとは思わないな。」
「貴様、それでもアレクサンドリアの騎士なのか!?」
「ふん、何とでも言うがいい。ついでに言っておけば、お前に11年前の雪辱を晴らす事ができるのが一番の理由だ。」
「11年前? あの試合の事であるか!?」

11年前――――スタイナーとレイガンは御前試合で対戦し、勝利したスタイナーは続くベアトリクスにもまぐれながら勝利したためプルート隊の隊長に任命されたのである。
しかし、敗北したレイガンは国境警備隊に任命されてしまったのだった。

「お前さえいなければ今頃私はブラネ様の側でもっと早く出世していたはずだ! それをふいにしたお前は絶対に許せんのだ!!」
レイガンはスタイナーを憎しみのこもった目で睨み付けた。
「それは逆恨みではないか! 貴様は騎士としての使命を忘れたのか!?」
「黙れ! いくぞスタイナー!!」
問答無用とばかりにレイガンが斬りかかってきた。
「やむをえん!」
スタイナーはレイガンの剣をかわすとレイガンの腹部を斬りつけた。
彼の腕力ならば鎧ごと相手を斬る事も可能のはずだった。
しかし、ガキンという音と共にスタイナーの剣は弾かれた。
「バカな!!」
「残念だったな。この鎧はブラネ様から頂いた『ダイヤアーマー』だ。お前ごときの剣では傷一つつける事もできんぞ。」
そして今度はレイガンが斬りつけてきた。
スタイナーはそれを『ミスリルの小手』で受け止めようとしたが、相手の剣の鋭さを見て思わず横へとかわした。
レイガンはそのままスタイナーの背後にあった甲冑を着た像を斬りつけ真っ二つにしてしまった。
「ククク、いい判断だ。受け止めようとしていたらお前はこうなっていたんだがな。」
「鉄でできた鎧をたやすく斬るとは・・・まさか!!」
「そう、この剣もブラネ様から頂いた『ダイヤソード』だ。この剣に斬れぬものなど無い!!」
再びレイガンが斬りかかった。 
「ぬうっ!」
迫るレイガンの剣をスタイナーは辛うじて受け止めた。


その頃、ベアトリクスとフライヤは女王の間の手前で新たな敵と対面していた。
その敵とはルーシアであった。
「お久しぶりですね将軍。いえ『元』将軍と言った方がいいのかしら?」
ルーシアは冷たい笑みを浮かべていた。
「ルーシアそこをどきなさい。さもないとあなたを斬ることになりますよ!」
ベアトリクスは無駄だと分かっていたが彼女の説得を試みた。
「フフフ、何を言うかと思えば・・・。私はこの日をずっと待ってたのよ。」
やはりルーシアはそれには応じず『ミスリルソード』を抜いた。
ベアトリクスは『セイブザクイーン』を抜きながらフライヤに小声で言った。
「・・・やむを得ません。私が相手をしている隙に先にブルネオを抑えに行ってください。」
「承知した。ブルネオの事は任せておくのじゃ。」
その言葉と同時にベアトリクスはルーシアに突進して斬りかかり、ルーシアは彼女の剣を受け止めた。
フライヤは二人が剣を交えている隙に女王の間へ向かった。
ルーシアはそれを横目で見送った。
「!? ルーシア、あなたまさか――――」
「フフフ、覚悟しなさい、ここがあなたの墓場よ!」
ルーシアはベアトリクスとの戦いを邪魔されないためにわざとフライヤを通したのだった。


二人はしばらく互角の戦いを繰り広げていたが、ベアトリクスの方が徐々に押され始めた。
ベアトリクスはいったんルーシアから距離を置いた。
「ルーシア、いつの間にこれほど腕を上げたのですか?」
彼女はルーシアの剣の上達ぶりに驚きを隠せないでいた。
少なくとも数日前までは自分の方が上のはずだった。
「フフフ、そうね、冥土の土産に教えてあげるわ。」
ルーシアが前髪を掻き揚げると額に『9』という数字が書かれてあったのが見えた。
いや『浮かんでいた』というのが正しいだろう。
「その数字は・・・?」
「クジャから貰ったこの指輪のせいよ。」
ルーシアは左手の薬指をベアトリクスに見せた。
その指には禍々しい光を放つ指輪がしてあった。
「この指輪は『呪いの指輪』といって装備者に秘められた力を10分間引き出してくれるのよ。その代わりに額の数字が0になると命が吸い出されるけどね。」
「私を倒すためだけに命を賭ける必要があるのですか!?」
「敵の心配をするの? 『泣く子も黙る冷血女』のあなたらしくないわね。あなたを殺すのに10分もいらないわよ。」
ベアトリクスの忠告など聞く耳持たずにルーシアは斬りかかってきた――――

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