Resistance(5)


1800年 1月27日 


その夜は高地にあるアレクサンドリア城にも霧が立ち込めていた。
そのためかまだ深夜でもないのに人影は全く無く不思議なくらい静かだった。
レイガンの部下のビッグスとウェッジは城の見張り台から城下を見下ろしていた。
「おいウェッジ、連中があんな立て札を見てここに来ると思うか?」
「半々ってところじゃないのか。あんな誘いに乗るほどバカとは思えないしな。まあ来ないなら来ないで奴らは国民の恨みを買うだけだがな。」
「そりゃそうだ――――おいっ、あれを見ろ!」
ビッグスが指差した先には、深い霧と闇の中3つの人影がこちらへ歩いてくるのが見えた。
「奴ら来やがったぜ! すぐにレイガン様に報告だ。」
レイガンはすぐに見張り台にやって来た。
「三人が現れただと! 間違いないのか!?」
「はっ! この霧と暗さのため顔までは判明しませんが鎧姿といい背格好といい間違いございません。」
「わかった。ブルネオ様にお伝えしよう。」


「まさかホントに来やがるとはな。」
ブルネオはその報告を聞きニタリと笑みを浮かべた。
レイガンはビッグスに100人余りの兵を率いて外へ出るよう命じた。
恐らく抵抗はしないと思うが相手は『100人斬り』の異名を持つベアトリクスのため用心したのである。


外に出た兵たちはすぐに三人を取り囲んだ。
三人は武器を所持していたが抵抗する意思はないようだった。
「そのままおとなしくしてろよ、変な真似すれば命はないと思え。」
ビッグスの言葉に『フライヤ』が突然震えだしたかと思うと腰を抜かし大声でわめきだした。
「ヘ、ヘルプミー! ボ、ボクは頼まれただけなんだ!!」
「な、なんだ貴様は!?」
兵たちが目を丸くしていると『スタイナー』と『ベアトリクス』が笑い出した。
「あ〜あバレちまったか、ガハハハハ!!」
「ええやん、作戦は大体成功やし、せやけど髪型をカールにするのは苦労したで〜。」
三人はスタイナー、ベアトリクス、フライヤではなく彼らの格好をしたバクー、ルビィ、そしてロウェルだったのだ。
「おのれ、斬り殺せ!!」
兵たちが一斉に斬りかかるがバクーの剣の一振りで5、6人が一度に倒された。
そして、周囲から悲鳴が上がった。
味方のはずの兵士数人が突然斬りかかってきたのである。
背後からの攻撃に兵はバタバタと倒されていった。
「き、貴様ら裏切る気か!?」
ビッグスの言葉に彼らは鎧を脱ぎ捨てた。
「違うな、俺たちは裏切ったんじゃなくて・・・。」
「表返っただけっス!!」
「ふふふ、そういうことずら!!」
「覚悟するでよ!!」
「俺たちは強いでよ!!」
彼らはブランク、マーカス、シナ、ゼネロ、ベネロであった。
兵士たちが外に出てきた時に密かに紛れ込んでいたのである。


「どうした!? 外は一体どうなってやがるんだ!!」
ブルネオが外の様子を見て驚愕しながらレイガンに聞いた。
「はっ! どうやら兵の中に裏切り者がでたようです。」
「何だと、すぐに斬り殺せ!!」
「そ、それが不意討ちのため味方が苦戦しております!」
「だったら援軍を出せばいいだろうが!!」
「かしこまりました。では直ちに!!」
レイガンは残りの兵士100人を城外に出した。
しかし、その中にも裏切り者が出た。
ブルツェン、コッヘル、ラウダ、バイロイト、ワイマール、ハーゲン、そしてベアトリクスの部下の兵士たちであった。
ベアトリクス隊の兵士たちは昨日、『町の女の子の名はすべて知っている』ワイマールから『心を打つ文章を書かせたら当代一』と言われるラウダが書いた手紙を受け取っていたのである。
そして、その手紙を読んだ兵士たちは進んで協力をしてきたのである。
ところで、これだけの戦闘が行われているにもかかわらず民家が静かなのはどうしてであろうか?
実は、昨日『城下町の地理に明るい』ハーゲンが近隣の住民たちにラウダが書いた手紙を密かに配り、今日、暗くなってからこっそりと避難させていたのである。
「どいつもこいつも裏切りおって・・・!! ウェッジ、味方を巻き込んでも構わんから大砲を放て!!」
「そ、それがその大砲を設置してある部屋が何者かに占拠されていて・・・。」
「バカな、大砲の管理は誰が――――ま、まさか!!」


レイガンの予想通りその部屋はトジェボンとメルゲントハイムに占拠されていた。
彼はプルート隊を無視していた事を後悔したが後の祭りだった。
「外はうまくいってるっす。そろそろ頃合いっすよ。」
「はいはい、撃ちますよ!」
『昨年の砲弾運びレースで優勝』したメルゲントハイムが大砲に弾を詰め込み『三国一の大砲の名手』であるトジェボンが発射した。
しかし、砲弾は空中で突然破裂した。


「何の音だ!?」
ブルネオがレイガンに聞いた。
「大砲から砲弾が発射されました。しかしながらどうやら花火のようです!!」
「バカな、なぜ花火を撃つ必要があるってんだ?」
そこへウェッジが駆け込んできた。
「た、大変です! スタイナー、ベアトリクス、フライヤの三人が城内に!!」
「何だと、どこから現れた!? 地下通路は監視していたはず――――」
「それが港から進入して来ました!!」
花火はスタイナーたちが突入するための合図だったのだ。
来るとすれば地下通路からであろうと予想したレイガンの裏をかいたのだった。


そのスタイナーたちは左塔から出てきたところだった。
「どうやら作戦がうまくいっているようであるな。」
「しかし、早くカルネオを探さなければ外が危うくなるかもしれません。」
「うむ、急ぐのじゃ!」
三人は城に残っている傭兵を倒しながら城内へ突入した――――

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