Resistance(4)


1800年 1月26日 


ここはアレクサンドリア城――――
ブラネの命令で城を預かっているブルネオは朝から玉座に座って王様気分を味わっていた。
その身体は脂身たっぷりでぶくぶくと肥えておりブラネの一族であることが見て取れる。
しかし、トレノという野望と欲望に満ちた街で生活してきたため、とても狡猾な性格となり決して侮ってはならない男なのである。
そこへ、現在兵士を統率しているレイガンがブルネオの側にやって来た。
「ブルネオ様、リンドブルムの女王陛下から文書が届きました。」
「ほう、陛下から一体何の用件じゃ?」
ブルネオは努めて上品に言った。
「はっ、『余はこれから外側の大陸へ向けて出撃いたす。ブルネオは余が帰還するまでに裏切り者のスタイナーとベアトリクス、そしてブルメシアのフライヤを捕らえて処刑せよ。遂行できなかった場合はそなたも処刑いたす。』との事です。」
それを聞いたブルネオは急にトレノにいた頃の荒っぽい口調になった。
「そりゃまずいな。おいレイガン、三人の捜索の方はどうなってやがる?」
「はっ、街中をくまなく捜索させておりますが、何分にも兵たちはこの街の地理に詳しくなく・・・。」
「まさかこの国からすでに脱出してるんじゃねえだろうな?」
ブルネオにとってそれが一番厄介だった。
「それはありえません。街の出入りも厳しく制限しておりますし、北ゲートも南ゲートも完全に封鎖しております。城下町のどこかに潜んでいるのは間違いございません!」
レイガンは断言した。
「なら、向こうから出てくるようにすりゃいいだろうが!」
「し、しかし、どのようにして・・・?」
レイガンはその方法を聞くと元からの部下であるビッグスとウェッジに城下町に触れを出すよう命令した。

そこへ漆黒の鎧を着た年齢が50歳程の男がやって来た。
「人使いが荒えな、あンたも・・・。」
「ふん、誰かと思えばガリオンか・・・。」
男――――ガリオンもトレノで雇われた傭兵であった。
「いいのか? あンな触れを出したら国民が何するか分かンねえぞ。」
「うるさい! お前のような傭兵にとやかく言われる筋合いはない、下がれ!!」
「へいへい、オレは雇われ兵だったな。」
ガリオンは立ち去るのをレイガンは忌々しげに見送った。
彼を雇ったのは寄せ集めの傭兵の中で剣の腕がかなり立つからであり、大事な戦力であったからである。

そこに今度は金色の長い髪をした女がやって来た。
「フフフ、機嫌が悪そうね。」
「ルーシアか・・・。」
女――――ルーシアはその言葉に敏感に反応した。
「呼び捨てにしないでちょうだい、あの女はもういないのよ。私の事は『将軍』って呼んでくださる!?」
「ふん、だがその女がまだ生きている間は枕を高くして眠れないのではないか?」
「だから私がこの手で殺してやるのよ、絶対にね!!」
そしてルーシアは立ち去った。
「・・・まあ勝手にするがいいさ。だがスタイナーの首は私が必ず・・・。」
レイガンも持ち場へと戻った。
彼はスタイナーと少なからず因縁があったのだった。


その頃、城内の一室では――――
「やはりそれしかないのでおじゃる?」
「ブルネオにまで見捨てられたら、われらの居場所はどこにもないでごじゃる。」
「では、まずブルネオに信用されるのが第一でおじゃる。」
「そして、ブラネ様の許しを貰えるようブルネオに頼むでごじゃる。」
双子の道化師が今後の身の振り方について話し合っていた。


一方、街中では――――
「ギルの兄貴、ほんまにわてら出世できるんやろな?」
「ああ、ここで手柄を立てれば一気にどでかい男になれるさ。俺を信じろよ。」
トレノで雇われた傭兵二人が自分たちの野望の事で会話をしていた。


そして、ここルビィの小劇場では――――
スタイナーたちは朝早くから城を落とす計画を練っていたが、なかなか良い作戦が浮かばなかった。
そこへ外で情報を集めていたブランクが慌てた様子で戻ってきた。
「みんな大変だ! 広場に触れが出されてやがった!」
ブランクの説明によると内容は次のように書かれてあった。


『全国民に告ぐ。数日中にアレクサンドリアへの反逆者である
スタイナー、ベアトリクス、フライヤが城に出頭しなければ
国民かかくまっていると見なし、数人を捕らえて処刑する。』


「何の罪のない民を処刑しようとするとはなんと卑劣な連中じゃ!」
フライヤが怒りをあらわにした。
「これはおまえさんたちをおびき出す計略だぜ。」
バクーがそう予見した。
「どちらにしても、出て行かなければ国民が犠牲になるのである。」
スタイナーが立ち上がった。
「スタイナー、それでは敵の思うつぼですよ。」
「しかし姫さまならば見捨てたりはしまい!」
ベアトリクスはその言葉を聞いて何も言えなくなってしまった。
「まあ落ち着けよ、 まだ丸一日あるんだ。とにかく昨日の二人からまた城の様子を聞くのが先決だぜ。動きがあった所を見ると何かあったのかもしれねえからな。」
それから間もなく、情報収集コンビがやって来てブラネが外側の大陸へ出撃した事を知らせた。


二人が出て行った後、小劇場内は再び騒がしくなった。
「ブラネ様が外側の大陸での目的を達成してしまえば本当に手が出せなくなってしまうのである!」
「シド大公からは何の連絡も無いのですか?」
「すまねえ、どうやら手紙の配達も遮断されたらしいぜ。」
あれ以来シドからの連絡も無く、ジタンたちがどうなっているかも分からなかった。
(この時、シドはトロッコを止めた事がアレクサンドリア側にばれたために監禁状態にあったのだった。)
「こうなれば無理を承知で城に攻め込むほかないのう・・・。せめて城の兵士がもう少し少なければ・・・。」
「それだ! 俺に名案が浮かんだぜ!!」
バクーはその作戦を三人に説明した。
その作戦は今までのよりも成功する可能性があるものだった。
しかし、問題が二つあった。
一つはプルート隊の協力が不可欠である事。
もう一つは作戦における適役が一人足りない事であった。
皆が考えあぐねていると、突然小劇場に一人の男がやって来た。
「ハロー、ルビィって人がやってる小劇場はここでいいのかな〜?」
「何者!!」
「貴様、城からの追っ手であるか!?」
スタイナーたちが剣を抜こうとしたため男は腰を抜かした。
「ノー! ボクはジタンという人に紹介されて来ただけだよー!」
「あっ! じゃああんたがロウェルなん?」
ルビィが声を上げた。
「ルビィ、知ってるのか?」
ルビィはロウェルにここを紹介するようジタンに手紙を出していた事を説明した。
「ちょうどいいぜ! こいつならぴったりだ!!」
バクーがロウェルの背格好を見て顔を輝かせた。
ロウェルは何がなんだか分からないような顔をしていたがこれで問題の一つは解決した。
そして、プルート隊の方はスタイナーが説得する事になった。


午後になってプルート隊全員が小劇場に呼び集められた。
スタイナーの希望でバクーたちは席を外していた。
「全員集合したようであるな。」
スタイナーはそう切り出して自分たちの計画を全て話し協力を求めた。
城を落とすという事を聞いて隊員全員が驚きを隠せなかった。
だが、スタイナーは最後にこう付け加えた。
「おぬしたちにとって、これは国に反逆するという行為だ。今、自分はおぬしたちの隊長ではない。それ故、無理強いはせぬ。しかし騎士たる者が今のこの国を見て黙っておれるのか?」
しばらく小劇場内は静まりかえっていたが、やがて最年長のバイロイトが口を開いた。
「この11年間、隊長の命令に逆らった事は一度もありません。今回も同じでござります。」
次に情報収集コンビのブルツェンとコッヘルが発言した。
「いつも隊長ばかりに任せてはおけません。」
「自分もです!」
すると、他の隊員も次々と発言を始めた。
「はいはい、やりましょう!」
「自分たちを今まで笑い者にしてきた連中を見返すチャンスであります。何だか血が熱くなってきました。自分はやりますよ!!」
「そこまで乗り気にはなれないですけど・・・女の子にいいところ見せたいし・・・一つやってみましょう。」
これで残るは二人。
「メル、おぬしはどうする?」
スタイナーがテーブルに突っ伏したままのメルゲントハイムに聞いた。
「自分には難しい事は分からないっす。隊長に従うだけっす。」
最後に新米のラウダに聞いた。
「ラウダ、おぬしは?」
「・・・やります。いえ、やらせてください!!」
スタイナーは部下の決意に感謝して初めて隊員に向かって頭を下げた。
「みんなかたじけない。ではこの手紙に書いてある通りに行動してくれ。」
それぞれ手紙を受け取り全員が敬礼をして外へ出ていった。
こうしてプルート隊全員が一丸となって協力する事になり全ての問題が解決した。


しばらくして街中をハーゲンが走り回っていた。
不審に思ったレイガンが彼を呼び止めた。
「お前、ずいぶん走り回っているがそんなに元上官のスタイナーを捕まえたいのか?」
「その通りであります。いつもいつも自分たちを偉そうに怒鳴り散らしていたので早く今までの憂さ晴らしをしたいのであります!」
「そうか、まあがんばることだな。」
レイガンは納得しハーゲンをそのまま行かせた。
(スタイナーがそこまで部下に恨まれていとはな・・・。)
スタイナーが部下に厳しい事は聞いていたのでレイガンはそれ以上追及しなかったのである。


そして翌日の夜、今まで語られる事の無かった戦いが始まる――――

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