Resistance(1)


1800年 1月24日


 ここはアレクサンドリア城の女王の間から通じる隠し通路の螺旋階段――――
 そこで二人の騎士――――アレクサンドリアの女将軍ベアトリクスと、ブルメシアの女竜騎士フライヤがモンスター相手に死闘を繰り広げていた。


 このような状況になったのには理由がある。
 ベアトリクスはこの国の王女であるガーネットが誘拐されてから、すぐに主君であるブラネ女王から隣国ブルメシアの侵攻を命じられた。
『ブルメシアがわが国を滅ぼそうとしているため、その前に先手を打つ。』というブラネの命令に疑 問は抱いたものの主君の言う事に間違いなどないと信じていた彼女はそれを遂行した。
 そして、北ゲートを突破しブルメシアを陥落させ、ジタンやフライヤたちと戦い完膚なきまでに叩きのめした。
 続いてクレイラに侵攻し、最終的にたった一人で宝珠を奪い再び挑戦してきたジタンたちを返り討ちにした後、レッドローズへ帰還したがそこで見たのはクレイラが召喚獣『オーディン』により壊滅する光景であった。
 そこで初めて――――実際はかなり前からであったのだが――――彼女の心に迷いが生じた。
 そして、アレクサンドリアへ帰還しジタンたちと三度対決した後、真実を知り自分の過ちに気付いた彼女は主君に刃を向けてジタンたちの味方となったのである。
 だが、それは当然ブラネの怒りを買うことになり、魔物を差し向けてきたのである。
 ベアトリクスとフライヤはジタンやガーネットたちを逃がすためその場に残り、二人で魔物を食い止めつつジタンたちの後を追うことになったのであった。
 そして――――


「どうじゃ、持ちこたえられるか!?」
「これだけ続けて戦うと、私でもそう簡単には・・・・・・。」
 その間にもブラネが差し向けてきた魔物――――バンダ―スナッチが襲いかかってきた。
二人で何とか退けたものの、あまりにも数が多いのと連戦続きだったためにさすがの二人にも疲労の色が見え始めた。
「さすがにキツいのう・・・・・・。」
「まだ気を抜くのは早いようです!」
 さらに、二匹のバンダ―スナッチが現れ、二人が身構えたその時だった。
「ベアトリクス!! フライヤ!!」
 聞き覚えのある鎧の音を響かせながら一人の男が階段を駆け上ってきた。
「スタイナーではありませんか!?」
 その男は、先程ジタンたちと共に先に脱出したはずのスタイナーだった。
 彼は二人を残したままにしておけず、初めてジタンの事を信用しガーネットを彼とビビに任せて戻ってきたのである。
「プルート隊隊長・・・・・・、アデルバート=スタイナー・・・・・・。誉れなる御両名に加勢いたしたく、ただいま、はせ参じました!」
 スタイナーは二人にプルート隊式の敬礼をした。
「あいさつは後じゃ!」
 フライヤの言葉と同時にバンダースナッチ二匹が襲いかかってきたが、スタイナーを加えて勢いを取り戻した彼らの敵ではなかった。


 それから三人は魔物や黒魔道士兵を倒し続けながらジタンたちの後を追った。
 そして、満身創痍になりながらも地下までたどり着いた。
「・・・どうやらもう追って来ぬようじゃな。」
 フライヤが一息ついた。
「そうですね。ではガーネット様を追うことにしましょう。」
「うむ、姫さまたちはもうトレノへ到着している頃である。」
 スタイナーが先頭に立ちガルガントステーションへ向かっていった。
 しかし、そこへ二つの影が目の前に飛び出してきた。
「何者!?」
 スタイナーが剣を構えた。
「待つっス、俺たちっスよ!」
 飛び出してきたのはマーカスだった。
「おぬしであったか。むっ?『俺たち』ということは――――」
「久しぶりだな。芝居下手のおっさん。」
 スタイナーの予想通り、石から元に戻ることができたブランクも姿を見せた。
「うぬぬ・・・。貴様が元に戻れたのは姫さまと自分の助力があってこそだと申すのに何であるか その口の聞き方は〜〜〜〜〜〜!!」
「それよりガーネット様は脱出なされたのですか?」
 スタイナーの言葉を遮ってベアトリクスが聞いた。
「ああ無事にな! 俺たちも早く脱出しようぜ!!」


 その時、あの耳障りな声が彼らに届いてきた。
「おまえたち、そうはいかないでおじゃるよ!」
「姫には逃げられたでごじゃるがおまえたちは逃がさないでごじゃるよ!」
 ステーション前に宮廷魔道士のゾーンとソーンが立ち塞がっていた。
「ここを通りたければわれらを倒してから行くでおじゃるよ!」
「さっきの様にはいかないでごじゃるよ!」
 するとスタイナーたちはなぜか反対方向に走っていった。
 ゾーンとソーンはそれを拍子抜けしたような表情で見送った。
「ずいぶん他愛ないでおじゃるな。」
「きっと我らの迫力に驚いたのでごじゃる。」
 その時、フシューという妙な声が聞こえてきた。
「変な声出すんじゃないでごじゃる。」
「変な声出したのはそっちでおじゃろう?」
 フシュー・・・。
 再び妙な声が聞こえた。
「後ろの方から聞こえるでごじゃるな・・・。」
「そうでおじゃるな・・・。」
 振り返ってみると、ガルガントの天敵であるラルヴァイマーゴが二人を見下ろしていた。
「おじゃ〜〜〜!!!」
「ごじゃ〜〜〜!!!」
 二人は慌てて逃げ出した。
 当然スタイナーたちが逃げた相手は、ゾーンとソーンからではなくラルヴァイマーゴからであった。
 全快の状態ならばともかく傷だらけの今の状態でラルヴァイマーゴを倒すのは不可能だったからである。
 そのため、別の地下通路(マーカスがブランクを連れて入ってきた場所、後にトットがジタンたちをトレノまで連れて行くことになる。)から街の方へと脱出することにした。

 しかし、途中でフライヤの足が止まったかと思うと次の瞬間に倒れてしまった。
 彼女はクレイラやアレクサンドリアでの連戦につぐ連戦で最も重傷を負っていたのである。
 そして、フライヤ程ではないがスタイナーやベアトリクスもボロボロになっていた。
 これ以上無理に動くのは危険とブランクは判断した。
 仕方なく地下通路にあった狭い部屋でひとまず休息を取らせ、ブランクとマーカスは部屋の外でこれからどうするかを相談した。
「どうするマーカス? これじゃ見つかるのも時間の問題だぜ・・・。」
「そうっスね・・・。でもうまく脱出できたとしてもアレクサンドリアには俺たちが隠れる場所なんて――――あったっス!!」
 マーカスがあることを思い出して大声を上げた。
「バカッ!! 静かにしろよ、見つかるだろ!」
 ブランクの言葉など聞こえなかったかのようにマーカスは続けた。
「兄キ、隠れるのに打ってつけの場所があったっス。」
「どこだよそこは?」
 マーカスはブランクにその場所の説明をした。
「な、なにぃ!! ルビィの奴がアレクサンドリアに小劇場を開いただとぉ!?」
「あっちゃー、兄キそれも知らなかったんスね。」
 マーカスたちは魔の森脱出直後、一緒に脱出したモーグリのモンティからルビィの手紙を受け取っていたのであった。
 その頃、石になっていたブランクが知らないのは当然の事であったが。
「じゃ、俺は先に外に出てルビィに会ってくるっス。」
 マーカスは出口へと駆け出した――――


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